検査の苦労ばなし
技術者の遍歴
田村 利勝
1
1第一臨床検査センター
pp.662-663
発行日 1978年8月1日
Published Date 1978/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543201683
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検査の苦労ばなしをとのご指名にいささか困惑した.自ら好んで選んだ道なのに,今更未練がましいという気持からである.しかし私にも人なみに苦労はあった.そろそろ未来のない過去だけに生きる年齢ともなれば,今更自分だけの胸中に秘めておくこともあるまいと,私の遍歴について恥をしのんで筆を執ることにした.
私は元東京第一陸軍病院で,病理試験の手ほどきを受けてから45年になるが,当時は満州事変に次ぐ支那事変,そして第二次世界大戦に発展し,文字どおり戦争の渦中にあった.私はいったん所属の旭川陸軍病院に復帰はしたものの,2年にして外地派兵となり,迎えられたのが新京(現長春)の陸軍病院であった.新京は満州国の首都,軍政の中心でもあったので,病院には長い間修練を積まれた優れた医師がおられたが,当時のこと,まして外地である.検査に要する参考書に乏しく,携行した臨床検査の小冊子,「細菌技術提要」,「内科診療の実際」など二,三のもので,これでは到底仕事にならず,結局各科診断学成書から検査を学ぶしかなかった.それから6,7年後に金井泉先生の「臨床検査提要」,中村豊先生の「細菌学免疫学講本」が世に出たのである.
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