Ex Laboratorio Clinico・29
ステロイド分析法研究の遍歴
南原 利夫
1
1東北大学薬学部
pp.488-494
発行日 1979年5月15日
Published Date 1979/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542915095
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グルクロン酸との出合い
最初に与えられたテーマや研究生活に入った当初の経験が,その後における研究に大きな影響を及ぼし,その方向を決定付けたという話はよく耳にするところである.筆者が取り組んでいるステロイドの直接分析法の研究も,そのきっかけは実に20数年前にさかのぼるのである.大学卒業後数年間続けていた研究に一応の区切りがついたころ,ちょうど創設された北海道大学薬学科に転出することが内定した.先生から"君は分析化学の教官になるのだから着任するまでその勉強をしなさい"と申し渡され,転任の数か月前に与えられたテーマが尿中グルクロン酸の定量であった.正にそれがグルクロン酸との出会いである.
そのころグルクロン酸が医薬として臨床に提供されるようになり,信頼度の高い測定法が求められていたわけである.当時定量にはもっぱらナフトレゾルシンと鉱酸により生成する色素を有機溶媒で抽出するFishmanの比色法が用いられていた.ナフトレゾルシンは今もなおこれに優るものがないほど,グルクロン酸に特異的な発色試薬である.しかし,この試薬は結晶状態でも空気酸化を受けるほど不安定なため,それが分析結果に影響を与えずいぶん泣かされた.糖類の呈色反応と言えば一般にその機構は複雑である.グルクロン酸とナフトレゾルシンの反応も,呈色を代表する色素の構造は明らかにされているものの極めて微妙であり,再現性のある結果を得るのに厳しい条件の設定が必要とされる.
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