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ブドウ糖非発酵グラム陰性杆菌(以下非発酵菌と略記する)は現在Opportunistic infectionの起炎菌として臨床各科より注目されている菌群である."Opportunisticinfection"とは,大手術後や重症基礎疾患を有する患者,あるいはステロイドホルモン剤,免疫抑制剤の使用,放射線療法などにより生体の感染防御機能が著しく低下している患者に発症する,いわゆる弱毒菌による感染症を言う.非発酵菌はクリグラー培地やTSI培地の高層部でブドウ糖を発酵しないことから,腸内細菌群とは区別され,このように呼ばれている.なお腸炎ビブリオやコレラ菌などのVibrio属,AeromonasやPlesiomonasも腸内細菌群以外のグラム陰性杆菌であるが,これらの菌はブドウ糖を発酵するので,非発酵菌には含まれない.非発酵菌の代表的な菌種は緑膿菌であるが,最近では緑膿菌以外の非発酵菌による感染症の報告が増加してきている.緑膿菌はピオシアニン(緑色色素)を産生することで,古くから日常検査の中で同定されていたが,そのほかの非発酵菌の同定が我が国で行われ始めたのは1971年以後と記憶している.関西医大の藪内英子博士は,これらの菌群の簡易同定法を確立すべく,長年この問題と取り組んでこられ本誌にもお書きいただいたことがある.つい最近「ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌」という先生の著書が出版され,この本に同定の詳細が述べられており,検査室の座右の書となるものと思う.非発酵菌の同定には被検菌株の鞭毛を確認しなければならない場合も多い.昔は鞭毛染色は非常に難しくその詳細な方法は秘伝とされていたとも聞く.しかし,先生の推賞されるレイフソンの方法を用いるとかなり容易に,単毛菌,極多毛菌,同毛菌を区別することができる.非発酵菌のうちPs. cepacia,Flavobacterium,Ach. xylosoxidons,Ps. maltophilia,Alcaligenesにおいては,多くの化学療法剤に耐性を示す菌株が多い.中でもPs. cepaciaはヒビテンに強い抵抗性を示すことが報告されている.またFlavo. meningosepticumは新生児や乳幼児の髄膜炎の原因菌としても重視されている.非発酵菌のうち臨床材料からの検出頻度の最も高いものは緑膿菌であるが,そのほかの菌については,施設により異なるようである.Acinetobacterもかなり検出頻度の高い菌種であるが,現在では多くの薬剤に対して感性株が多い.なおミノサイクリン,ドキシサイクリンは緑膿菌以外の非発酵菌に対してかなり優れた抗菌力を示す.
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