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Ⅰ.症例
前日の16時頃に家人Aがつくった〈おにぎり〉を家族と友人の計4人(B,C,D,E.この4人は全員20歳代前半)が当日の朝に摂取した.摂取した時間はB,C,Dの3人が当日の8時頃,Eが当日の10時頃であった.8時頃に摂取した3人中の2人(B,C)に9時頃から悪心,嘔吐,腹痛が出現し,残りの1人(D)にも10時頃から同症状が出現した.10時頃に摂取した1人(E)には11時頃に悪心,嘔吐,腹痛が出現し,さらに下痢もみられるようになった.しばらく自宅で経過を観察していたが,症状が改善しないため4人ともに外来を受診した.なお,〈おにぎり〉をつくったAは無症状であった.受診した4人を食中毒患者と判断し,直ちに保健所に届け出た.また,それと並行して下痢のあるEの便細菌培養検査を行った.4人ともに軽度の脱水状態と思われたが,経口的な水分摂取を勧め帰宅とした.その後,患者は4人ともに回復した.
自宅に残っていた〈おにぎり〉の中身(サケ,タラコ,カツオブシ)を保健所経由で東京都健康安全研究センターで検査したところ,すべてからエンテロトキシン産生性の黄色ブドウ球菌(コアグラーゼ3型,エンテロトキシンA型)が検出され,タラコからは2.5μg/gのエンテロトキシンも検出された.さらに同研究センターで〈おにぎり〉をつくったAおよび患者Eの便細菌検査,患者Dの吐物細菌検査,〈おにぎり〉をつくったAの手指ふきとりの細菌検査を行ったところ,すべての検体からエンテロトキシン産生性黄色ブドウ球菌(コアグラーゼ3型,エンテロトキシンA型)が検出された.便と吐物からノロウイルスは検出されなかった.これらのことから,保健所は本事例を黄色ブドウ球菌食中毒と断定した.なお,当院で行った患者Eの便細菌培養検査で病原細菌は検出されなかった.
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