『医学常識』
最近の細菌性食中毒
豊川 行平
1
1東京大学医学部衛生学
pp.560-561
発行日 1957年12月15日
Published Date 1957/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542905420
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厚生省の発表によると,食中毒の発生は年々増加の傾向を示し,昨年度(31年度)は発生件数1,668,患者数28,904という驚くべき数字となつている。これらは報告されたものだけであるから,これ以外に未報告のものがどれだけあるかわからないわけである。これらの食中毒のうち,病因の明らかとなつたものが約半数で,それらを分類すると,細菌性食中毒,化学的物質による食中毒自然毒による食中毒とに分けられる。これらのうち,とくに多いのは細菌性食中毒で,病因の判明したものの半数以上,ときには86%以上がこの細菌性食中毒である。
細薗性食中毒を大別すると,感染型食中毒と毒素型食中毒とに分けられる。感染型食中毒というのは,消化器系伝染病に似ていて,一種の感染症であるが,いわゆる伝染病ではない。つまり原因菌が食物のなかで一定度以上増殖したものを摂取することによつてはじめて症状が発現するのである。これに反し,消化器系伝染病では食物はただ原因菌の運搬の役目をしているだけで,菌が食物のなかで増殖するという必要がない。つまり,微量の菌で発病するのである。この点が食中毒と伝染病との相違点で,伝染病では二次患者が発生するのに,食中毒では殆んど発生しないということも,この点に基ずくわけである。また潜伏期も伝染病に較べると,短かいことも食物中である程度増殖したものを摂取するということに原因がある。
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