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はじめに
臨床検査では古くから,血中バイオマーカー測定のために生化学反応や抗原抗体反応に発光物質反応を付加させた反応系を用い,測定対象物質の量や活性を吸光度や発光量などに変換して,光を測定する方法が用いられてきた.これらには主に紫外~可視領域の光が用いられている.近年では,近赤外光を用いたパルスオキシメーターや脳機能イメージング,あるいは光干渉断層計(optical coherence tomography,OCT)を利用した眼底検査など非侵襲的検査への光技術の応用がなされ臨床の現場で用いられている.
また,赤外スペクトル解析は物質の構造解析ための分析法の一つであり,主に分析化学・物理化学の分野で用いられてきた.赤外線をある物質に照射すると,その物質はその分子構造特異的に赤外線のエネルギーを吸収する.したがって,照射光とある物質での透過光とのエネルギー差(吸収スペクトル)を測定することによりその物質の分子構造を知ることができる.物質の赤外吸収スペクトルは照射した赤外線の波数(波長の逆数,単位:cm-1)を横軸にその物質の吸光度を縦軸にとることで示され,そのスペクトル形状は分子固有のものとして現れる.この原理を利用して,測定対象を血清として赤外スペクトル解析を行えば血清成分が無試薬で測定できることになる(図1).これまでに赤外スペクトル解析による,血清中グルコース,総蛋白質,アルブミン,総コレステロール,中性脂肪,高比重リポプロテイン(high density lipoprotein,HDL)コレステロール,低比重リポプロテイン(low density lipoprotein,LDL)コレステロール濃度などの定量測定が報告されている1~6).
高トリグリセリド(triglyceride,TG)血症では,その主たる成分がカイロミクロンなのか超低比重リポ蛋白(very low density lipoprotein,VLDL)なのかを判断する必要があるが,カイロミクロンとVLDLの測定には,電気泳動法や超遠心法など,煩雑で長時間を要する手技が必要である.ここでは,血清カイロミクロンおよびVLDL濃度測定を赤外スペクトル解析により,簡便で試薬を必要としない方法として試みたので紹介する.
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