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はじめに
アシネトバクター属菌は,通常土壌や水などの自然環境中に生息し,またしばしば健常人の皮膚からも見いだされる好気性のブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌で比較的乾燥環境に強い.現在,少なくとも17の種名と15のgenomic speciesが確認されているが,なかでも臨床の現場ではAcinetobacter baumannii(A. baumannii)が日和見感染症の起因菌として高率に分離される.A. baumanniiは本質的にセファロスポリン耐性であるが,菌体外に存在するDNA断片を取り込んで自己の染色体DNAなどに組み込む機構をもつため容易に抗菌薬に耐性化しうる.特に,2000年以降近隣諸国を含め海外ではカルバペネム系薬を含めたより広範囲の抗菌薬に耐性を獲得した多剤耐性菌の出現,蔓延化が認められるようになった.これらの多剤耐性A. baumanniiが感染患者の治療を困難にしており,さらには病院環境中で長期間生存可能なことから人工呼吸器関連肺炎など重篤な院内感染症にかかわり臨床上問題となってきている.
一方,多剤耐性A. baumanniiは国内ではいまだ稀な耐性菌であり,2009年2月の福岡での院内感染事例の報告1)を機に徐々に認知されつつあった.しかしながら,特に2010年9月からは複数の大学病院や医療機関の院内感染事例が報告されるようになってきており,本菌の早期認知と迅速な院内感染対策実施の重要性が認識された.当センターでは2009年7月に米国からの輸入事例と考えられる創部感染症より多剤耐性A. baumanniiの分離が確認され,直ちに院内感染対策の徹底化を図り感染の拡大には至らなかった.本稿では,このような新型の多剤耐性菌についてより理解を深める目的で主要な薬剤耐性機構を含め分子学的特性を解析した知見を報告する.
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