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はじめに
リパーゼはトリグリセリド(triglyceride,TG)に作用し遊離脂肪酸を生成する酵素であり,微生物,動植物に広く存在し脂質代謝に重要な役割を果たしている.高等動物においてよく知られているリパーゼとしては食物から摂取した脂肪を加水分解する膵臓由来の消化酵素としてのリパーゼ(pancreatic lipase,PLP),カイロミクロン,超低密度リポ蛋白質(very low density lipoprotein,VLDL),中間密度リポ蛋白質(intermediate density lipoprotein,IDL),低密度リポ蛋白質(low density lipoprotein,LDL),高密度リポ蛋白質(high density lipoprotein,HDL)などのリポ蛋白質の代謝に重要な役割を果たしている肝性トリアシルグリセロールリパーゼ(hepatic triacylglycerol lipase,HTGL),リポプロテインリパーゼ(lipoprotein lipase,LPL)が知られている.そのほかにホルモン感受性リパーゼや最近発見された内皮性リパーゼ(EL)など1)がある.
これらのリパーゼ活性を測定する際にはTGを基質とすることが多い.活性が比較的高いPLPの場合には基質から生成される脂肪酸にアルカリ滴定法(またはpHスタット法)を用いることでもリパーゼ活性を測定できる(ただし活性測定の再現性・精度は不十分)が,血清または血漿中で活性が低いHTGL活性やLPL活性の場合にはラジオアイソトープで標識したTGを基質として用いる方法が使われている.この方法は操作が煩雑でありまた特別な施設を要するために日常の臨床検査には不向きである.基質のTGを水溶液中で使うためにはあらかじめポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol,PVA)やアラビアゴム(gum arabic)などの水溶性高分子化合物を添加し超音波処理あるいは高速ホモゲナイザーなど物理的な手段によりエマルジョンとして分散させる必要がある.これら物理的な基質調製条件は基質調製の再現性に乏しいため安定した活性値が得られにくいという問題があった.目標として,①基質調製に特別な物理的な手法を用いずに容易に安定した基質を調製できること,②リパーゼの反応生成物を酵素的に検出できること,③汎用の生化学自動分析機器に適応できること,などを掲げ肝性リパーゼ活性測定系の構築を試みた.なお,①~③の条件を満たす膵由来リパーゼ試薬は既に実用化されている2,3)が,この試薬は膵由来リパーゼの活性測定条件に最適化されておりHTGL活性やLPL活性を測定することはできなかった.本稿では,膵由来リパーゼと同一のリパーゼ基質を用い膵由来リパーゼ活性の影響を受けないHTGLの活性測定試薬について紹介する.
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