トピックス
赤血球膜とマラリア原虫
高桑 雄一
1
,
萬野 純恵
1
,
越野 一朗
1
1東京女子医科大学医学部生化学講座
pp.164-166
発行日 2008年2月1日
Published Date 2008/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543102005
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プロローグ
マラリアは熱帯・亜熱帯の地域に分布する世界最大の感染症であり,年間3~5億人が感染し,死者は1日約6,000人に達している.近年,流行地域における薬剤耐性マラリア原虫の蔓延のみならず,地球温暖化などによりわが国でもその流行が危惧されている.ハマダラカの媒介によりヒトに感染したマラリア原虫〔熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum,P. falciparum)など〕は肝細胞内で増殖し多数のメロゾイト(merozoite)となり,肝細胞を破壊して血流中に放出され,標的の赤血球に侵入する.マラリア原虫は核も細胞内小器官ももたない赤血球内においてわが物顔でヘモグロビンを分解したアミノ酸を材料に自分に都合のよい蛋白質を合成し,輪状体(ring form),栄養体(trophozoite),分裂体(schizont)へ順次分化しながら8~24個のメロゾイトを産み,ついには赤血球膜を破壊して血流中に放出され,新たな赤血球に侵入する(図1).P. falciparumの場合,この増幅感染サイクル(生活環)は約48時間で完結し,この過程で三大症状である発熱,貧血,脾腫がみられる.死亡原因は高度の貧血と血管壁への粘着性の増した感染赤血球による脳血管閉塞である.これらの深刻な病態に至る元を正せば赤血球膜を舞台に引き起こされる原虫と赤血球のせめぎ合いこそ,マラリア感染症の本質と捉えられる1,2).
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