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はじめに
認定臨床エンブリオロジストと聞いてもピンとこない方も多いのではないでしょうか.これは生殖医療に携わる技術者の呼称で,不妊治療をしている施設で配偶子(精子や卵子)のお世話をする技師はすべてエンブリオロジストと呼ばれています.エンブリオロジストの中で日本臨床エンブリオロジスト研究会の定める規定を満たし,認定を受けた者が認定臨床エンブリオロジストというわけです.
私は夜間学部生だったため,学生の頃からアルバイトとして検査業務に従事していました.アルバイト時代には生化学,血液,一般などといった授業や実習などでも馴染みのある検査業務だったのですが,就職した施設では普通の検査をすることはあまり求められず不妊治療のための精子の調整,卵子の培養が主な業務となりました.初めのころは学んだことのない分野に戸惑いと不安がありましたが,卵子が受精し分割するさまを見ていくことのおもしろさ,生命の誕生,その神秘性を直に感じることのできる仕事です.体外に取り出された瞬間から卵子を大事に大事に育て数日後には子宮に戻す.その胚がうまく着床すれば晴れて妊婦さんの仲間入りをされます.当院で治療した方のほとんどが転院することなく出産し,乳児健診も受診されます.妊婦健診では超音波を担当しているので自分自身で心拍や胎動を観察することができ,そしていよいよ出産というときにはお母さんを励ますことも,無事に産まれてきてくれた児を抱きともに喜ぶこともできます.かわいく元気な姿を見ることが何より楽しく,あの精子と卵子から育ったのかと喜ばずにはいられません.このやりがいこそさらに技術を向上させようと思う原動力だと思います.技術を向上させるためには,ハムスターやマウスの卵子,また研究用に使用する同意を得たうえで患者さんから提供していただいた未受精卵あるいは成長の止まってしまった胚を用いた日々の練習だけでなく勉強会などで議論することも,同じ志を持った技師同士のつながりも大切です.エンブリオロジストには検査技師だけでなく薬剤師,農学部出身者などもいますので普段なら職域の壁を感じてしまうところですが,それぞれの得意分野に応じて疑問点も解決策も違うため,異なる発想で意見交換をすることがとてもよい刺激になっています.今のところ法整備もなく,生殖医療に携わるうえで特に資格を有することは必要とされていません.将来的にも何か公的な資格制度ができる可能性は低いようです.
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