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敗血症とその診断に対する最近の考え方―全身性炎症反応症候群の概念の導入
敗血症に相当する用語として,sepsisが使用される.sepsisは本来腐敗を意味するが,最近は菌血症の有無を問わず,感染病態の重篤性(感染症に対する全身性の反応)を強調する表現である.敗血症は特定の病原菌によって起るわけではなく,また特異的な病理学的所見ももたないことから,原発巣だけでは説明できないほど重篤で多彩な症状を呈する病態が漠然と敗血症と呼ばれてきた.その臨床的な特徴は,原発巣や原因菌の違いを超えて,高熱,頻脈,頻呼吸,白血球増加で表現される全身性の炎症反応が顕著なことである.一方,敗血症と同様の病像が重症の膵炎,熱傷,多発外傷などの非感染性の侵襲でもみられる.それで,1991年の敗血症に関する用語と定義のコンセンサスカンファレンスで,全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome,SIRS)の概念が導入された.SIRSは感染性と非感染性とを問わず種々の重篤な臨床的侵襲に対して全身性の炎症反応が起こっている病態である.SIRSは,①体温>38℃ないし<36℃,②心拍数>90/分,③呼吸数>20/分,④白血球数>12,000/mm3,<4,000/mm3ないし桿状核好中球>10%,といった4項目の診断基準のうちの少なくとも2項目を満たす病態と定義される.それで,敗血症は感染症に起因したSIRSと定義される.敗血症は,重症敗血症(低灌流による臓器機能障害を伴う敗血症)を経て敗血症性ショック(重症敗血症の最重症病型;持続的低血圧を伴う敗血症)により多臓器機能不全症候群(恒常性の維持困難な臓器機能障害)へと連続的に重症化する1).この定義は菌血症の証明を必要としないが,敗血症の重症化に伴う血液培養の陽性率は敗血症で約20%,重症敗血症で20~40%,敗血症性ショックで40~70%である.
全身性炎症の血液生化学的マーカー
SIRSの診断項目は炎症性と非炎症性のみならず,感染性と非感染性の疾患の鑑別診断の特異性に欠けるとの批判がある.敗血症の診断基準は重症敗血症や敗血症性ショックへと重症化する危険性の高い感染症患者を早期に識別する基準にすぎず,重症度や予後の評価には不適当である.敗血症の病態生理が急速に解明されてきたことから,敗血症の病態である全身性の炎症を裏付ける血液生化学的な指標となるだけでなく,その重症度(敗血症,重症敗血症と敗血症性ショックの段階的重症化の区別)や予後の評価も可能にする指標の追加が必要と考えられる1).実際,新生児,術後症例,多発外傷,熱傷や膵炎の症例,好中球減少や臓器移植の症例では感染症合併の有無が予後を左右するが,その診断は非常に困難で信頼できる鑑別法もない.これまで,敗血症の特異的な指標として,プロカルシトニン(procalcitonin,ProCT),C反応性蛋白質(C-reactive protein,CRP),腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor,TNF),インターロイキン(interleukin,IL)-1,IL-1受容体アンタゴニスト(IL-1 receptor antagonist,IL-1ra),IL-6,IL-8,E-セレクチン,可溶性細胞間接着分子(ICAM)-1,内因性protein C,好中球エラスターゼ,顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte colony-stimulating factor,G-CSF),補体成分C3a,エリトロポイエチン,血清アミロイドA蛋白(serum amyloid A protein,SAA),血漿NO/NO2-濃度,脳性ナトリウム利尿ペプチド(brain natriuretic peptide,BNP),エンドトキシン,可溶性CD14サブタイプ(sCD14-ST)が検査マーカーの候補に挙げられてきた.これらのなかでは,特にProCTとCRPがSIRSの感染性と非感染性の鑑別に有用であると考えられている2).
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