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ウイルスはあたかも犯人が警察の追っ手から逃れるために変装するように,表面の蛋白質を変異したり内部の構造蛋白質の変異や蛋白質の一部の産生を停止して宿主の免疫機構から逃れる手段を駆使している.表面蛋白質の変異は抗体の攻撃から,内部構造の変異および産生の停止は細胞障害性T細胞(cytotoxic T cell,CTL)の攻撃から回避する手段として用いられている.最近よく知られるようになったB型肝炎ウイルス(hepatitis B virus,HBV)を例としてウイルスと宿主の攻防を記す.
B型肝炎ウイルス(HBV)
HBVは直径42nmの球形粒子で不完全な環状二本鎖DNAとDNAポリメラーゼ,逆転写酵素などを包む芯(コア,core)から成り立つDNAウイルスである(図1-a).HBVが細胞に侵入すると細胞質内でコア粒子が遊離し,コア粒子からDNAが放出(脱核)され,DNAは宿主の核内に移行する.次いで,ウイルスが持参したDNAポリメラーゼで完全二重鎖(covalentry closed circular DNA,cccDNA)を形成する.次いで,cccDNAからmRNAとpregenome RNAの転写がなされる.mRNAは宿主のリボソームを借用して表面蛋白質,コア,DNAポリメラーゼ/逆転写酵素などのHBVを構成する種々の蛋白質が合成される(図3).表面蛋白質は図1-bに示すS領域が支配しており,pre-S1および,pre-S2領域,S遺伝子から成り立っている.pre-S1,pre-S2は肝細胞への吸着に重要であり,S遺伝子が支配するS抗原(hepatitis B surface antigen,HBs抗原)はそのアミノ酸構成により4種類(adr,adw,ayr,ayw)のサブタイプを規定する.コア(hepatitis B core,HBc)蛋白質とe(hepatitis B e,HBe)抗原の産生は複雑である.リボソームがコア遺伝子の先端コドンから翻訳を始めた場合は183個のアミノ酸から成るコア蛋白質(HBc)が産生され細胞質にとどまる.しかし,precoreの開始コドンから翻訳を始めた場合,29個とコアの183個を含む計212個のアミノ酸から成る蛋白質が産生される.次いで,N末端,C末端が切断されて,149個のアミノ酸から成るe(HBe)抗原が産生され血中に放出される(図2).したがって,HBcと血中に放出されたHBeとのアミノ酸組成が一部重複していることを記憶願いたい.
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