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医療におけるリスクマネジメントは「人間はエラーを起こす」ということを前提にそのエラーが事故へつながらないようにマネジメントする一連のプロセスである.そのためには,なぜエラーが起こったのかを分析し対策に結びつけることが重要である.ヒューマンエラーは,もともと人間が持っている生理的・認知的あるいは心理的特性がエラーを引き起こしやすい環境によって誘発されたものであり,原因ではなく結果であるということができる.このような見かたがヒューマンエラー防止対策の立案に必要である.
インシデント事例分析方法はいくつか種類があるが,今回は河野龍太郎氏〔東京電力(株)技術開発研究所〕が提唱している時系列事象関連図法『Medical SAFER』を紹介する1).時系列事象関連図は,縦軸に時間,横軸に関係者・物・システムなどをとり,事実を時系列に並べて整理する方法で,事実関係を正しく把握し,事故の構造を知ることができる.事故の構造は二つである.①事象の連鎖:事故に至るまでにはいろいろなトラブルやヒューマンエラーが発生していて,それらが鎖のようにつながっているという特徴がある.②背後要因の存在:それぞれのトラブルやヒューマンエラーといった事象の背後にはそれぞれを引き起こす「背後要因」がいくつかあり,さらに背後要因の背後要因,そのまた背後要因というように多重な要因が存在している.事故の構造に基づき,①事象の連鎖をどこかで断ち切れば,最終事象である事故には至らない.②背後要因は他の類似事象においても同様に存在している.の2点に着目して対策を立案していくことが必要である.対策立案時には,ヒューマンエラー対策の思考手順(①やめる,②できないようにする,③わかりやすくする,④やりやすくする,⑤知覚させる,⑥予測させる,⑦安全優先の判断をさせる,⑧能力を持たせる,⑨自分でエラーを発見させる,⑩エラーを検出する,⑪エラーに備える)に則り,実行可能性を無視して可能な限り多く挙げる.その後に現実的な制約条件を考慮し実行する対策を決定する.
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