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前立腺は胡桃大で膀胱の直下に位置している.いわゆる「前立腺肥大症」というものは病理学的には前立腺の過形成である.これは尿道近くの内腺領域に発生するので排尿障害が出やすい.これに対し,癌の多くは外側の外腺領域に好発する.日本人の前立腺癌発症頻度はアメリカの約1/10で,死亡患者数はアメリカの約1/4といわれる.近年,高齢者の増加,動物性脂肪(肉類,ミルクなど)の摂取増加に伴い発症率が著増していて,2015年には1995年の約3倍になると推定されている.前立腺癌は他の癌に比べて成長速度が遅いとはいえ,5年生存率は診断時の病期と関連し,前立腺内に限局している場合は70~90%,前立腺周囲に拡がっている場合は50~70%,リンパ節転移がある場合は30~50%,骨や肺などに遠隔転移がある場合では20~30%と言われる(国立がんセンターの資料より).
早期診断には前立腺特異抗原(prostate specific antigen,PSA:分子量33,000の糖蛋白質,kinin-karllikrein familyに属するserine protease)の測定が重要である.これは前立腺分泌液の中に含まれており,一部が血中に出現するので,産生や放出が多いと検査値に反映される.前立腺肥大症や前立腺炎などでも上昇する.一方,前立腺摘除術後は消失するので,再発の早期発見にも有用である.一般に4ng/ml以上になると癌の可能性が高くなる.ところが,安心できない調査結果がアメリカから出された.つまり,PSAの値が3.0ng/ml以下の55歳以上の健康男性を7年間追跡し,PSAの値が4.0ng/ml以下の男性に前立腺生検をしたところ,5,587人中1,225人に癌を発見したというデータである.分析結果から4.0ng/mlを基準とした際,前立腺癌患者の20.5%しか発見できないことがわかった.この癌の中に早期の癌も含まれると思われるが,正常値といっても安心できないのである.確定診断には,通常左右ぞれぞれ6か所前後の前立腺針生検の病理組織診断が必要になる.これにより,癌の有無と癌の異型度を評価する.手術摘出前立腺では,癌の浸潤範囲(病期)とを判定する.前立腺癌の悪性度を評価するのに,グリーソン分類(Gleason grade;最低2~最高10;数字が大きいほど悪性度が高く,癌が転移する確率も高くなる)が用いられている.7以上の癌では,15年以内の死亡率が80%に達するといわれる.
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