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筆者が免疫の研究を始めたころ,ヒトIgG抗体作製の際に,抗原とするヒトIgGに結核菌抽出物を加えエマルジョンを作りこれを動物に投与するように指導された.ヒトIgG抗体を作るのになぜ結核菌抽出物を加えるのかとの問いに「とにかく抗体がよくできるから」との答えしか得られなかった.あれから40年,TLR(Toll-like receptor)の発見でようやくその答えが得られた.TLRに関しては先に述べているが(第31巻第9号,804-805,2003),最近TLRの研究成果が著しいので新しい知見を加えて再度取り上げる.
獲得免疫系における非自己はマクロファージや樹状細胞などの抗原提示細胞が取り込んだ病原体を消化してできたペプチドである.TLRが発見される以前は自然免疫系における非自己はその実態が明らかではなかったが,自然免疫系における非自己とは病原体の細胞壁の構成成分である脂質と蛋白質そして核酸などの分子であり,TLRがこれらを認識することが明らかになった.したがって,TLRは侵入した病原体を迅速に認識し排除する免疫応答システムの引き金であるといえよう.TLRが病原体特有の分子を認識すると,細胞内のシグナル伝達回路を活性化してIL(interleukin)-12,IL-6やTNF(tumor necrosis factor,腫瘍壊死因子)-α,IFN(interferon)-α,IFN-βなどのサイトカインの産生を促すので,TLRは自然免疫のみならず獲得免疫系をも活性化し,感染防御機構において重要な役割を果たすのである(図1).結核菌抽出物をアジュバント(免疫応答を増強する意味)として用いる理由はここにあったのである.現在9種類のTLRの機能が明確にされている.
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