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生体防御を司る免疫系には,病原体など外界異物の生体内への侵入を非自己として認識し排除する機能がある.免疫系は獲得免疫と自然免疫に大別される.脊椎動物は獲得免疫機構を備える.獲得免疫に関する研究からは抗原を非自己として認識するT細胞やB細胞の存在が明らかとなった.さらにその抗原受容体としてT細胞受容体,免疫グロブリンがそれぞれ同定されて,その認識機構が明らかにされてきた.獲得免疫の研究は長らく免疫学研究の主役でもあった.一方,獲得免疫を持たない無脊椎動物や植物は自然免疫のみで病原体など非自己を認識し,それを排除するシステムで身を守っている.1989年,Janeway5)は哺乳類の自然免疫にも非自己を認識する受容体があることを予想した.Lemaitreら8)によってショウジョウバエの初期発生過程の形態形成に関与する因子としてクローニングされた受容体Tollが真菌感染防御に必須であることが1996年に明らかになった.ショウジョウバエは自然免疫しか持たない.ついで1997年にTollのホモログが哺乳類に同定され,Toll様受容体(Toll-like receptor,TLR)と命名された9).このような過程を経てTLRの免疫応答への関与が次第に明らかとなっている.
哺乳類のTLRは病原体由来の種を超えて保存された抗原を認識して宿主の自然免疫応答を誘導する1).現在,哺乳類では13種類のTLRが報告され,樹状細胞(dendritic cell:DC)やマクロファージなどの自然免疫系の細胞に発現するとされる11).TLRの細胞表面や小胞体の膜外領域にはロイシンに富んだ塩基配列の繰り返し部分があり病原体などの分子パターンを認識している.また細胞内領域にはインターロイキン(IL)-1受容体の細胞内領域と相同性の高い領域を有し,Toll/IL-1 receptor(TIR)ドメインと呼ばれている.現在,TIRドメインを有する5種類のアダプター分子,MyD88,TIRAP,TRIF,TRAM,SARMが知られている.その下流のシグナル伝達経路もIL-1受容体と同様の分子によって担われることが知られ,TLRは様々な微生物の特異的な構成成分を認識して細胞内シグナル伝達経路を活性化する.TLRにより開始されるシグナル伝達はcaspase-1の活性化によるIL-1β,IL-18の産生,NF-κBの活性化に伴うTNF-αやIL-6などの炎症性サイトカイン産生,さらにIRF(interferon regulatory factor)の活性化によってもたらされるⅠ型IFNの産生を誘導する(図1).このような反応はナチュラルキラー細胞やマクロファージの活性化を誘導して自己免疫応答を増強する.同時にⅠ型IFNの産生によって誘導される遺伝子群のなかの補助刺激分子CD80,CD86,CD40やIP-10などのケモカインリガンドの発現を誘導して引き続く獲得免疫応答にも影響する2).
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