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これまで述べてきた免疫機構の多くは,病原体が輸血や皮膚の損傷箇所から,また昆虫や野生動物の刺し傷や噛み傷から血液を介して侵入して全身に感染し,末梢リンパ節や脾臓で免疫応答する全身免疫機構である.そのほかに,病原体は,飲食,呼吸,生殖,性行為,見る,聞く,嗅ぐなどヒトの生命維持に必要な行為を介してつねに侵入するチャンスをうかがっている.すなわち,消化器系,呼吸器系,生殖器系,感覚器官の粘膜からの感染である.厚い皮膚は病原体にとって物理的なバリアーとなっているが,粘膜は薄く透過性が高いので病原体が侵入するのに大変都合のよい場所である.しかし,そこには巧妙な粘膜免疫機構がありここからの感染を防御している.
腸管関連リンパ組織
粘膜免疫機構(mucosal immune system)には腸管関連リンパ組織(gut-associated lymphoid tissue,GALT),鼻咽頭関連リンパ組織(nasopharyngeal-associated lymphoid tissue)と気管支関連リンパ組織(bronchus-associated lymphoid tissue)がある.消化管粘膜の表面積は皮膚の約200倍もありテニスコート1面半の面積に相当し,摂取した食べ物を取り込み,また多くの外来性抗原と接触している.GALTは繊毛細胞が突起状をなす繊毛とドーム状のパイエル板(Peyer patch)から成る.GALTを構成しているのは主として糖衣に覆われた繊毛上皮細胞であるが,パイエル板には数は少ないが糖衣に覆われていない部分にM細胞(または微小襞細胞)が存在しており小腸の免疫応答の誘導にきわめて重要な役割を果たしている(図1-a).M細胞は糖衣を欠くので腸管内腔の分子や病原体を含む巨大粒子と直接接触でき,エンドサイトーシスやファゴサイトーシスと呼ばれる細胞の飲み込み作用で抗原を取り込み粘膜固有層に運ぶ.粘膜固有層の基底膜部分にはマクロファージ,樹状細胞,T細胞,B細胞が待ち構えており,末梢リンパ節と同様な免疫応答が開始される.すなわち,マクロファージは取り込んだ抗原をナイーブリンパ球に提示し,ナイーブリンパ球はエフェクターリンパ球(細胞傷害性T細胞,形質細胞)に成熟する.細胞傷害性T細胞は病原体が感染した繊毛上皮細胞を破壊し,形質細胞はIgA抗体を産生する.IgA抗体は繊毛上皮細胞の粘膜固有層側に発現しているIgレセプターで腸管内腔に運ばれ,腸内腔の病原体や毒素を中和する(図1-b).これらエフェクター細胞は全身の循環系に移行して他の器官の粘膜免疫系にも移行する.パイエル板のこれらの装置は,末梢のリンパ節とは異なり,複雑な装置や上位のリンパ中枢の支配を受けることなく腸管内の多様な抗原に迅速に対応できるように単純な構造になっている.
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