カンボジアだよリ
偉大さと奇怪さクメール文化の遺跡—派遣検査技師の現地報告(3)
加藤 哲
pp.508
発行日 1967年7月15日
Published Date 1967/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542916671
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カンボジア正月(チョーチナム)は四月です。今年は十三日から三日間です。正月といってもバナナの軸を輪切りにしたものや,砂盛りした器に切細工した色紙などをつけた棒を立て,線香をそなえたものが門口に作られる位で,その他特別変ったものは見られません。最も正月を特徴づけるものはこの間賭博行為が許されることでしよう。それから多くの人はアンコールへ参詣に出かけます。
アンコール(王都の意味)の遺跡は600km2にわたって散在しており,1861年標本採集のためジャングルに入ったフランスの学者アンリムオは死の静寂に眠る石の大殿堂を見て蜃気楼ではないかと目をこすったそうですが,クメール文化の偉大さと怪奇さにはだれもが圧倒されてしまいます。その一つであるジャヤヴァルマン七世によって建てられた第四次王都アンコールトムは一辺3kmの正方形の中心にバイヨン廟(戦死者の霊をとむらう納骨堂)がありそそり立つ50の塔と172の顔が,モナリザのごときなぞの微笑をたたえ,異様な雰囲気をかもし出し,芸術的建築遺跡としてもまさしくトム(大きいという意味)でありましよう。このバイヨン廟の第一回廊の壁面にはほかと違って当時の庶民たちの生活がぎっしりとすばらしくレリーフされているのです。
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