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日常の臨床検査項目の多くが酵素法によって測定できるようになった現在,クレアチニンは,早くから酵素法の適用が期待されながら,取り残されてしまった項目といえる.これは,今も測定法の主流を占めているアルカリ性ピクリン酸とクレアチニン(あるいはその関連化合物)による呈色反応(Jaffé反応)が単純で高感度であるということが要因の一つといえる.しかし,新しい酵素法の開発に必要なクレアチニンの代謝に関与する酵素反応がなかなか発見されなかったことも,一つの要因として挙げることができる.最近,筆者らの研究室で今まで知られていなかったクレアチニンの分解経路が明らかにされたのを機に,新しいクレアチニンの酵素法の開発が進みつつある.
図に微生物におけるクレアチニンの分解代謝経路を示した.クレアチニン環の加水分解を出発反応としてクレアチンを経る経路(CR経路)とクレアチニンの脱イミノ反応はすでによく知られており,関与するそれぞれの酵素を用いた分析法も考案されている,筆者らは,クレアチニン環の水解が脱イミノ反応の後,すなわちN—メチルヒダントン(NMH)の段階で起こる経路(NMH経路)を想定して,多くの微生物を用いてこの可能性について検討した.その結果,土壊から分離したクレアチニン資化性細菌,Pseudomonas Putida 77がNMH経路に従ってクレアチニン→NMH→N-カルバモイルサルコシン(CSR)→サルコシン→グリシンの順に分解代謝を行うことが判明した.NMH経路に関与する諸酵素をP.Putida 77より精製,単離してみると,本経路は次の四つの反応で構成されていること,各反応はそれぞれクレアチニンデイミナーゼ,NMHアミドヒドロラーゼ(NMHase),CSRアミドヒドロラーゼ(CSRase),サルコシン脱水素酵素が関与することが明らかとなった.NMHaseとCSRaseは新規酵素であり,特に前者はアミド結合の切断にATPを要求する珍しい酵素であった.下記の反応(1)〜(3)およびサルコシン酸化酵素を組み合わせると,クレアチニンは容易にH2O2の生成として測定できること,反応(2)で生じたADPもシグナルとして利用できることも併せて判明した.特に反応(1)〜(3)を用いる系は,従来法で問題となった反応の可逆性や,クレアチン,NH3による誤差を考慮する必要がないなど有利な点が多く,新しい測定系として実際面での利用が期待される.
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