特集 臨床検査の新しい展開―環境保全への挑戦
Ⅱ.環境問題と疾病
5.水環境の汚染と疾病
3)人工水環境の細菌とそれによるヒトの疾病
藪内 英子
1
Eiko YABUUCHI
1
1愛知医科大学微生物・免疫学講座
pp.1345-1350
発行日 1999年10月30日
Published Date 1999/10/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542904229
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はじめに
現在,真に自然の環境で生活できるのは野生動物だけではないだろうか.われわれは「自然がいっぱい」とか「自然に取り囲まれて」などと言いながら,実は人の手が加えられた人工の自然環境に置かれている,と私は考える.したがってこの項の標題に掲げた"人工水環境"とは,一目見て人工とわかる水環境を対象とする.
臨床検査の読者諸兄姉は,微生物(ここでは細菌)とわれわれ(宿主)との関係が非常に複雑で変化に富んでおり,病原性・感染・発症などについて考察するとき,1+1=2のように明確な線引きや定義付けをし難いことをご承知である.数年来,医学以外の分野の人と接触したり作業をする機会があり,その人たちの多くが"感染・発病の要因は解明されている"と信じ,"感染経路が解らないのは調べ方が悪いから","感染源または感染経路が明らかになったと発表されると,それですべてがわかった"と考えていることを実感した.このことから,われわれが感染に関係した情報を出すときの表現,報道関係者の意識と言葉遣いについて,われわれがさらに注意を払う必要がある."日和見感染症","日和見病原体"が用語として繁用されるが,そもそも感染症とは,程度の差はあっても,すべて日和見的なものである.宴会に参加して同じご馳走を食べても下痢をするのは一部の人という卑近な例から,抗生物質のなかった時代のペストの大流行でも人類が滅亡しなかった事実,海外研修旅行に行った働き盛りの企業トップ80人のうち,1人だけがレジオネラ肺炎で死亡した例などは,感染症成立の不可思議性を明示し,それ故に感染源を少なくする努力が求められるのである.
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