特集 感染症診断へのアプローチ
各論
11.眼感染症
阿部 達也
1
Tatsuya ABE
1
1新潟大学医学部眼科学教室
pp.1409-1415
発行日 1998年10月30日
Published Date 1998/10/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542903900
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はじめに
眼科診療について,「『レッドアイクリニック』の時代は既に終わり,『ホワイトアイクリニック』の時代になった」と言われるようになって久しい.「レッドアイクリニック」とは結膜充血を主症状とする眼感染症疾患を対象にする診療を意味し,「ホワイトアイクリニック」とは白内障や緑内障などの視覚障害を主症状とし,結膜充血の伴わない眼疾患を対象にする診療を意味する.すなわち,各種の眼感染症疾患はほぼ克服されたかに考えられていた.これは,衛生環境の改善,衛生思想の普及,抗菌剤の開発普及が進んだことなどが要因として挙げられる.
その一方で,従来とは異なった形で眼感染症疾患の診療は新しい問題を抱えている.第1は抗菌剤の濫用に伴う,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant staphylococcus aureus;MRSA)に代表される薬剤抵抗株の出現による新たな感染症の出現である.これは他科同様,眼科領域でも問題となってきている1).第2は後天性免疫不全症候群(acquired immunodeficiency syndrome;AIDS)や臓器移植後の免疫不全状態に合併する.サイトメガロウイルス網膜炎などの,従来まれであった眼日和見感染症が増加傾向にあることである.第3はクラミジア眼感染症に代表される疾患の変貌である.トラコーマは現在の開発途上国と同様,従来わが国においても代表的な眼感染症であった.しかし,現在では新たな発症例はみられない.現在のわが国におけるクラミジア眼感染症は,性行為感染症の1つである封入体結膜炎として引き継がれ増加傾向にある.
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