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1."透析液"エンドトキシン(ET)の意義
腎不全を代償する人工腎臓治療のうち,わが国で最も普及している治療モードは血液透析である.血液透析治療に用いる透析膜の原点は細孔径の小さな古典的セルロース膜であったが,徐々に応用される膜種も増加し,膜孔径もより大きな方向へと開発が進められてきた.現在では,正常腎の糸球体濾過を模倣する観点から,アルブミン(66kDa)すらわずかに漏出するような膜(ハイパフォーマンス膜)が主流となりつつある.しかし,膜孔径が大きくなれば逆に"透析液"中の汚染物質が血液側に進入するのを促進することにもなると考えられる(図1)."透析液"中にETが混入していた場合(実際に多くの施設で"透析液"は高度に汚染されている!),古典的セルロース膜では逆流入のバリアーとして機能していたのに対し,ハイパフォーマンス膜では分子量が数千~数万ダルトンの分画のET (いわゆるETフラグメント)を透過してしまうと警告されている1))また,糸球体濾過の除去特性により近づけるための治療として血液透析濾過(HDF;hemodiafiltra-tion)が近年のトピックとなっている.特に浄化した"透析液"を置換液として静脈投与するオンラインHDF治療が普及しつつある.この治療を行うためには"透析液"のETフリー化は必至である.慢性のET暴露は患者に前炎症状態を誘導し,長期的に透析アミロイド症(β2-マイクログロブリンがアミロイド主成分として滑膜などの組織に沈着し,運動障害を起こす透析特有の合併症)2)や異化亢進による栄養障害の促進因子となる可能性が指摘されている.また,術後など炎症期の患者では単回のET暴露が発熱や血圧低下などの臨床症状を起こすこともある.こうして血液透析・濾過治療の安全性を確保する観点から"透析液"水質管理の重要性が叫ばれるようになった.
1994年の九州HDF検討会ではHDF治療のための"透析液"と置換液の基準について討論されコンセンサスが得られている3).続いて1995年,透析医学会も公式見解として"透析液"水質安全基準案を勧告した(表1)4).また,"透析液"ETの客観的な評価には測定法の標準化が必要との要望を受け,HDF研究会は測定法のバリデーション指針草案を提示している5)."透析液"中の種々の汚染物質のうち,ETが指標とされた理由としては,①"透析液"中の微生物汚染のうち最も普遍的に出現する,②生理活性が強力である6),③鋭敏な定量法があることが挙げられる.ETはグラム陰性菌の菌体破砕成分であり,"透析液"水棲菌の大半がグラム陰性桿菌であること7)をみても妥当な選択であろう.一般的な透析液調製工程とETレベル推移の概略を図2に示す8).
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