コーヒーブレイク
蔵
屋形 稔
1
1新潟大学
pp.1012
発行日 1995年9月15日
Published Date 1995/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542902589
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芸術座で「藏」を観劇した.毎日新聞連載当時から宮尾登美子の小説の人気は高かったが,美しく品のいい女優沢口靖子を主役に得て盲目の厳しい人生を描いているのに楽しい仕上がりであった.原作で古い新潟弁をよく調べて書かれていたせいか,役者の台詞も毎日聞き馴れている訛と違和感も少なく,バックになる酒造り杜氏(とうじ)の出身地彌彦山付近の寺泊,野積海岸などの雰囲気もよく出ていた.
物語の人間模様の軸に酒と酒を醸(かも)す蔵を配した作者の着眼は流石というほかない。古くからの伝統や因習のからまる蔵というものは奥が深く,反面酒というものは楽しい存在である.私の故郷福島の家の筋向いも地元で屈指の素封家であり,名の売れた楽器正宗という酒の醸造元であった.小学校に入る前後からこの家の沢山のそして広々とした蔵はそこの同年輩の息子たちと遊ぶ究竟(くっきょう)の場所であった.
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