特集 遺伝と臨床検査
II DNA診断
1.DNA診断のための基本的操作
6) PCR法
竹脇 俊一
1
,
永井 良三
2
Shun-ichi TAKEWAKI
1
,
Ryozo NAGAI
2
1東京大学医学部臨床検査医学教室
2東京大学医学部第三内科学教室
pp.58-62
発行日 1992年10月30日
Published Date 1992/10/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542901279
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●はじめに
PCRはpolymerase chain reactionの略で,DNAの既知領域を数時間のうちに数十万倍に増幅する方法である.その反応は,二本鎖DNAの一本鎖への分離,合成プライマーの一本鎖へのアニーリング,DNAポリメラーゼによるプライマーの伸張反応,の3つの過程から成り,このサイクルを繰り返すことによりDNAを増幅する.DNAポリメラーゼは一本鎖DNAを鋳型にしてそれと相補的なDNAを合成し,二本鎖とする反応を触媒する.反応の開始にはDNAと相補的に結合するプライマーが必要で,プライマーの結合後,5'から3'の方向にDNA鎖を合成していく.DNAは通常二本鎖で存在するので,目的の領域を挟む二種類のプライマーを加えてやれば,その領域は2倍になり,それを繰り返すことにより指数関数的にDNAが増幅される(図1).したがって,既知領域の塩基配列を含むゲノムが1分子でもあれば,その領域のDNA断片が大量に得られることになる.
この方法が遺伝子研究やDNA診断に与えたインパクトは大きく,その方法論を大きく変えた.従来の分析技術は検出シグナルの増幅に焦点が置かれていたが,PCRは検出対象のDNAそのものを増幅するというまったく新しい発想に基づいている.そのため検出が,簡便な電気泳動などで十分となり,複雑な分析過程を大幅に簡略化した.
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