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転写制御因子(transcription factor)の多くはDNAの特定の塩基配列を認識して正あるいは負の転写制御を行う.これらの蛋白質がDNAに結合する時,DNAの二重鎖はほどけて塩基が露出するわけではなく,蛋白質は二重らせん構造のままらせんの中心にある塩基対を認識する.DNAの二重らせん構造には大小の溝(majorとminorgroove)があるが,アデニン,チミン,グアニン,シトシンの4つの塩基を区別できるのは蛋白質がmajor grooveから塩基対を覗いた時だげである.一方,ある種の蛋白質はminor grooveに結合するが,これらの塩基配列認識はあまく,例えばトポイソメラーゼIIやピストンなどはA+T-richな配列に高い結合能を有する.
DNAの三重鎖構造は二重らせん構造のmajorgrooveにDNAの鎖がもう一本結合したものである(図1).どのような塩基配列でも三重鎖DNA構造をとれるのではなく,ポリプリン・ポリピリミジン配列(一方の鎖にプリン塩基であるアデニンとグアニンが並び反対の鎖にはそれに相補的なピリミジン塩基のチミンとシトシンが並んだ配列)に特異的な構造で,3番目の鎖としては条件によりポリプリン鎖あるいはポリピリミジン鎖がくる.核酸の三重鎖構造(最初は三重鎖RNA)が初めて報告されたのは1957年であるが,最近になってようやくその生物学的な役割が明らかになってきた,その1つがヌクレアーゼ感受性部位の存在である.遺伝子領域,特に上流の転写制御領域にはDNase IあるいはS1ヌクレアーゼに感受性のある部位がその遺伝子の発現に応じて現れたり消えたりする.例えばニワトリのβAグロビン遺伝子の約200bp上流にある16bpのポリグアニン配列は,遺伝子発現の時期(発生14日後の赤血球)にDNase Iに対して高感受性部位(hypersen-sitive site)となる1).このようなポリプリン・ポリピリミジン配列は高等動物のゲノムDNAに頻繁に現れるために,さまざまな生物学的現象との関与が指摘されている2,3).
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