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肝硬変症の患者に認められる低酸素血症の機序として,肺内動静脈シャントとそれに関連した換気/血流比の不均等が重視されている1,2).肝硬変患者における肺内動静脈シャントの存在は,1956年にRydell and Hoffbauerにより初めて報告されたが,その後アイソトープを用いた検討やコントラスト心エコー図法により証明されている3,4).すなわち,99mTc macroaggregated albu―min (MAA)を用いた検討では,MAAの直径は20~50μmで,正常者では径10μmの肺毛細血管にtrapされるが,肝硬変患者のなかには全身の臓器への集積が認められる例があることから肺内シャントの存在が推測される.また,コントラスト心エコー図法では,hand agitateした生理食塩水を末梢静脈から注入し,左心へのコントラスト出現の有無を調べるが,生理食塩水内のマイクロバブルのサイズは10~500μmであり,左心系にコントラストの出現がみられた場合には,このサイズのマイクロバブルが肺内を通過することを意味する.われわれの検討では,肝硬変症20例中10例に左心系にコントラストの出現が認められ,肝硬変症における肺内シャントが決してまれではないことが示された.このうち,左心系へのコントラストが強く認められた3例では動脈血酸素分圧が有意に低値であった(56.6±9.8Torr).
肺内動静脈シャントの機序として,①体静脈血(肺動脈血)が換気されていない肺胞を流れる,②肺動脈と肺静脈の間に解剖学的交通があって,ガス交換にあずかる毛細管一肺胞界面を体静脈血がバイパスしてしまう,③肺毛細血管の拡張があって,酸素が血流中央部の赤血球にまで十分に達しない,などが考えられるが2),③の関与が大きいと思われる.正常の毛細血管では赤血球が一層に並んで流れ,ガス交換がうまく行われるが,この部位に血管拡張があると赤血球が何層にも重なって流れ,また通過時間が短くなることから,酸素の拡散に支障を生じて低酸素血症をきたすと考えられている.肺内動静脈シャントは,心拍出量の20~70%に達することがあり,大きなシャントがあると,末梢の酸素需要に応ずるために心拍出量が増大することになる.今回の検討では,コントラストが左心系に出現しなかった群,すなわち有意な肺内動静脈シャントの存在しないと思われる群においても,軽度の低酸素血症を呈する症例があったが,これらの例では低酸素血症の原因として,門脈肺静脈シャント,拡散障害,などの肺内動静脈シャント以外のメカニズムの関与が考えられる6,7).
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