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Stewartらが1980年,従来,副甲状腺ホルモン(PTH)の腎作用の指標とされてきた腎性cyclic AMP(cAMP)を癌に伴った高カルシウム(Ca)血症患者で測定し,これらの患者が腎性cAMPの異常高値群と異常低値群にきれいに二分されることを報告してから,癌患者の高Ca血症の発症機序がにわかに注目されるようになった.癌が異所性にPTHそのものを産生することはあるとしても,極めてまれであることがPTHの蛋白,mRNAのレベルで証明されていて,彼らの発見は,腎性cAMP高値群では免疫学的にはPTHと異なるが生物学的にはPTH作用を持っ物質が産生されて,それが高Ca血症の原因物質として作用している可能性を示したものであった.腎性cAMPが低値を示す群では一般に癌の骨転移が著明であり,癌細胞の局所的な骨破壊作用で骨からCaが遊出し,結果的にPTH分泌が抑制されて対照的に腎性cAMPが異常低値になると解された.こうした知見を基に癌に伴った高Ca血症(malignancy associated hypercalcemia;HHM)は臨床的にPTH様因子の産生に伴うhumoral hypercalcemia of malignancy(HHM)と転移性骨病変によるlocal osteolytic hypercalcemia(LOH)に分けて考えられるようになった.
PTH様因子については内外の研究室でその本体の解明が試みられ,HHM腫瘍の抽出物あるいはその細胞の培養上清での活性が調べられ,PTHよりは大きな分子で骨や腎のPTH受容体に結合してcAMP産生上昇活性を示すこと,in vitroにおいて骨吸収促進活性を示すことなどが明らかにされてきたが,ようやく1987年に至って実際に物質として同定された.まずMartinらがヒト肺癌細胞の培養上清からの精製・分離に成功し,N末端のアミノ酸配列が決定され,引き続いて乳癌,腎癌由来の因子が精製され,いずれもN末端のアミノ酸配列は等しく,それらアミノ酸13個のうち8個はPTHと相同であることが明らかとされ(図8),この新しく発見された蛋白はPTH関連蛋白(PTHrP)と呼ばれるようになった.
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