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はじめに
腎臓では,加齢に伴い硬化した糸球体が増え,尿細管の脱落,間質の線維化が生じ,その結果,腎機能が低下する.このため,高血圧や糖尿病などの基礎疾患を有する高齢者は,慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)を発症しやすく,CKDは,成人の8人に1人が罹患している国民病となっている.また,医療の革新的進歩に伴い,以前であれば対象とならなかった症例であっても積極的に先進医療が行われており,その合併症として急性腎障害(acute kidney disease:AKI)を発症する患者が増加している.従来,AKIは一過性に腎機能が低下し,その後回復する良性の病態と考えられていたが,AKIからCKDへ高率に移行することが明らかとなり,AKIの増加は,CKDの増加の一因である.これらの腎臓病は,進行すると末期腎不全となるだけでなく,心血管疾患の発症や生命予後の悪化に関連するため,適切な腎臓病の管理が重要である.
近年,腎臓病へ好影響を与える薬剤として,SGLT2(sodium glucose cotransporter 2)阻害薬や新たなアルドステロン拮抗薬による腎予後の改善が期待されている.しかし,腎機能がすでに低下した腎臓病では,これらの薬剤であっても十分な効果を実感できないのが現状であり,腎臓病が発症/進行する危険性の高い患者を早期に判別し,迅速に治療介入を行うことが求められている.腎臓病の悪化は,糸球体障害の程度よりも尿細管間質障害の程度と強く関連することや,AKIの多くが尿細管障害で発症することから,尿細管マーカーが,腎臓病診療において有用であると想定され,さまざまな尿細管マーカーが開発されてきた.
筆者らは,1997年より尿細管マーカー,尿L型脂肪酸結合タンパク(L type fatty acid binding protein:L-FABP)の開発にかかわり,尿L-FABPが腎臓病の早期診断や重症化予測に優れていることを見いだした1).その後,国内外の研究室からもさまざまな研究成果が発表され,尿L-FABPは,2011年にCKDおよびAKIに対する尿細管機能障害マーカーとして保険適用となった.尿L-FABPは,実臨床で使用できる日本発の尿細管マーカーである.腎臓病を悪化させる要因の1つが,腎内の微小循環障害により生じる尿細管低酸素であるが,尿L-FABPは,尿細管低酸素を反映する可能性がある.その後,2015年に好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン(neutrophil gelatinase-associated lipocalin:NGAL)が,尿細管マーカーとしてAKIに対して保険収載された.海外では,2014年にNEPHROCHECK®{[tissue inhibitor of metalloproteinases 2(TIMP2)]×[insulin-like growth factor-binding protein 7(IGFBP7)]}が米国食品医薬品局で承認さている.ここでは,主にL-FABPについて述べるとともに,NGALとTIMP2×IGFBP7についてもふれる(表1).
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