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心臓の血管系を上水道にたとえると,リンパ系は下水道に当たる([1]).上水道は多くの人の注目を浴びているが,下水道は全く無視されている.リンパ管の同定は必ずしも容易ではなく,同定法として墨汁および色素注入法,過酸化水素浸漬法,酵素組織化学(5′-nucleotidase),免疫組織化学(D2-40抗体),電子顕微鏡観察などがある.毛細リンパ管とリンパ管は同じ微細構造を示し,菲薄な内皮細胞から縁取られ([2]),基底膜は不連続または欠如している([1]左上).両者の違いは弁の有無で,有していればリンパ管,無ければ毛細リンパ管である.毛細血管において,内皮細胞間はtight junctionによって結合し,物質の通過を許さない.一方,毛細リンパ管の内皮細胞はend to end(端—端)結合であり([1]左上),外圧が加わると,いとも簡単に細胞間結合が離開し,物質の通過を許す.
休みなく動き続けている心臓に,大量の間質液(組織液)がある.毛細リンパ管に吸収された間質液(心臓リンパ)はイヌでの実験によると1日で約76mL,大量である.古典的な墨汁注入法を心臓に活用すると,注入された墨汁はすぐに毛細リンパ管に吸収される([3]).上述した種々の方法によって,心臓内のリンパ管の分布や心臓内のリンパの流れを知ることができる.心内膜下に注入された墨汁は心内膜の毛細リンパ管(En)に取り込まれ,心筋層(M)から心外膜(Ep)へ流れ,心臓リンパ管(LT)を経て([1],[2]),気管・気管支リンパ節に終わる.心臓のリンパ系は心房よりも心室において発達しており,心外膜側の毛細リンパ管網が最も密である([4]).リンパ管は作業心筋以外の領域,刺激伝導系の洞房結節,房室結節([2]),房室束,脚,Purkinje線維にも分布している.さらに,三尖弁と僧帽弁([2])にもあるが,大動脈弁や肺動脈弁にはない.
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