忘れられない患者
住血吸虫症を発見して
渡辺 亮
pp.147
発行日 1976年1月10日
Published Date 1976/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402206400
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この十数年来,診療技術が著しく進歩してきた.そして昔,私どもが医局で担当し,"珍しい一例"として症例報告を行った患者ですら,一GPのところで偶然発見されるということも稀ではないように思われる.次に珍しいというか,一生涯忘れられない一症例を述べてみたい.
患者は38歳の男性で配管工,主訴は慢性のテネスムス(裏急後重)を伴う下痢.身長172cm,体重68kgで,半年以上,1日数回の下痢が出没した人とは思われない体格のよい人で,スクリーニング検査として,便(潜血,虫卵),便の一般および赤痢菌培養,尿蛋白,糖,ウロビリノーゲン,沈査をみたが,いずれも異常はない.ただ,右季肋部に触れた,割に軟らかい1横指の肝臓が気になったため,脾腫,舌苔,静脈瘤などは認めなかったが,一応,肝機能検査および血液一般検査を試みた.結果は,モイレングラハト値,GOT,GPT,ALP,TP,A/G,ZTT,BSG,T-Cholesterol,Hb,R,Wなど,すべて正常であった,専門医に依頼して施行した胃レントゲン像も特変はない.困り果て,仕事の上の悩みや経済状態,さらにはSexなどにも思い切った質問を行ったが,快食(快便は別として),快眠は問題なく,食欲も十分あるようである.
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