寄生虫屋が語るよもやま話・11
酒さえ飲まなきゃよい人なのよ……—ソロモン諸島のマラリア調査
太田 伸生
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1東京医科歯科大学大学院・国際環境寄生虫病学分野
pp.1498-1499
発行日 2016年11月15日
Published Date 2016/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542201038
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今回は少し悲しい話である.第二次世界大戦では,アジア太平洋地域で戦場となった地域に多大な迷惑をおかけした.ソロモン諸島もそのような地域の1つである.日本は米豪の連絡線を絶つべく基地を設けようとしたが,完成直前に米軍大機動部隊の急襲を受けて退散した.以来,ガダルカナル島の飛行場争奪をかけた消耗戦が繰り広げられ,投入した日本兵2万人のうち7割が戦死する敗北を喫して日本敗戦の端緒となった.戦死した日本兵の多くは戦闘より飢えとマラリアで命を亡くしている.ガダルカナル島はマラリアの濃厚流行地であったので,侵攻した米軍は十分量の糧食とマラリア薬を携行していたのに対して,日本軍にはその両方の備えがなかった.今も残る島内各地の戦跡を巡ると,もの言わぬ兵士の声が聞こえる気がして瞑目合掌するのである.
そんなガダルカナル島であるが,戦後,わが国はマラリア対策を柱とした援助を行うことになった.JICAは首都ホニアラに立派なマラリアセンターを建設し,対策専門家を派遣して,患者のケア,媒介するハマダラカの駆除,治療薬の安定供給など総合的対策についての貢献を行ったが,残念なことに効果は十分でないまま事業は終了した.その後,わが国のマラリア研究グループが小規模の研究費ベースで対策や調査のためにソロモンに入り,ほそぼそながら同地のマラリア対策について引き続き協力がなされていた.
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