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あとがき
岩田 敏
pp.928
発行日 2016年8月15日
Published Date 2016/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542200920
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この原稿を書いている頃,関東地方では山々の新緑もそろそろ終わり,木々の緑が深くなってまいりました.アジサイも少しずつですが色付き始め,もうしばらくすると梅雨の訪れがやって来そうな気配です.梅雨といえば,空はドンヨリ,雨がシトシト,空気がジメジメ,心はモヤモヤ,といった何か暗〜いイメージをおもちになる方が多いかも知れませんが,私自身は,日本の四季のなかで,夏が始まる前兆でもある梅雨のことは嫌いではございません.静かな雨音のなかでは,木々の緑と雨滴に濃く染まった幹や枝とのコントラストが何ともいえず美しく感じられ,空気のなかのちりや埃がすっかり洗い流されたかのように,大気は大都会のなかでさえ澄み切った香りがするからです.
そういえば,毎朝のウオーキングの通り道にある都心の公園では,この間までミカンの花の甘〜い香りがしていたかと思っていたら,いつの間にか白梅の木には青い梅の実がたわわに実っていることに気付きました.“梅雨”という漢字,もともと中国ではこの季節,雨が多くてカビが生えやすいということで「黴(ばい)雨」と呼んでいたものを,これではいかにもカビ臭いというので,ちょうど梅の実が熟すころであることに掛けて,同じ読みの“梅”を当てて“梅雨”と呼ぶようにしたそうです.なかなかお洒落ですね.せっかくですからこの梅の実はもうしばらく収穫せずにそっとしておいていただき,眺めていたいと思っています.
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