寄生虫屋が語るよもやま話・6
検査技師さんの執念に脱帽—戦争イソスポーラ症
太田 伸生
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1東京医科歯科大学大学院・国際環境寄生虫病学分野
pp.684-685
発行日 2016年6月15日
Published Date 2016/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542200854
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前回(60巻5号)に続いて,これも私が岡山大学に勤務していた時分の話である.県内西部の医療機関から検査依頼の連絡をいただいた.患者は50歳代の男性で,主訴は持続する下痢である.特段の既往歴はなく,全身状態もさほど悪くない.下痢便の検体を拝見したが,実をいうと診断はすでについていた.その病院の検査技師がまごうことなき寄生虫を観察して,念のための確認依頼であったからである.“貴院の診断で間違いありません”と回答文書を作って返送した.
下痢便中にみられたのは戦争イソスポーラ(Isospora belli)であった.少々変わった名前の虫で,トキソプラズマなどアピコンプレックス門の腸管寄生原虫である.その名前の由来は,第一次世界大戦中に兵士の間で流行して戦力に無視できない影響があったことからだそうで,わざわざ“戦争”という名前が付いている.症状は一過性の下痢で,健常人の場合は自然治癒するが,免疫状態が低下している人では下痢症状が持続する日和見感染症である.正直に告白させていただくならば,私が戦争イソスポーラ症の検体に接したのはこれが最初であり,大変勉強になったケースであった.
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