今月の主題 癌幹細胞と検査医学
巻頭言
癌幹細胞と検査医学
池田 康夫
1
Yasuo IKEDA
1
1早稲田大学理工学術院先進理工学部生命医科学科
pp.431-432
発行日 2011年5月15日
Published Date 2011/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542102612
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癌は全死因の約30%を占め,死因統計の第1位であり,高齢化社会を迎えてますます増加傾向にある.したがって,癌の克服は世界中の人々の悲願であり,それに向けて多くの研究者が懸命な努力をしているところである.その戦略として現在最も注目されているのが,癌の源とも言える“癌幹細胞”である.この細胞を治療の標的として癌の根絶,治癒を目指そうというアプローチが国内外で始まっている.本邦はこれまで,幹細胞生物学研究で大きな成果を挙げてきており,その実績を基にした癌幹細胞研究においても優れた研究が展開されているが,この領域の研究の競争は国内外で激しく,特に癌根絶という大きな目標に向け新規の抗癌剤の開発競争は激烈を極めている.
幹細胞とは自己複製と分化機能を併せもつ細胞であり,現在,ヒトのそれぞれの臓器ごとに幹細胞の存在が知られている.ヒトの各臓器の組織構築は幹細胞システムに依存していると考えられているが,癌組織についてもその構成細胞をみると,元の正常組織の構築に類似していることが多く,同様な幹細胞システムが作動しているのであろう.したがって,癌幹細胞こそが癌組織の発育,進展に中心的な役割を果たしていると考えられる.癌幹細胞は組織幹細胞,造血幹細胞と同様に自己複製と分化機能を有し,分化により癌細胞を供給して癌組織の発育を担っている.同時に無限の自己複製能をもっていることから,これを根絶しないかぎり癌のコントロールは困難である.その意味でも癌幹細胞の生物学的特徴を明らかにする研究の進展が待たれるところである.
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