Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
1.はじめに
サイトカインは生体内の局所において,ごく微量存在することで,生理的役割を担っている生理活性物質である.個々のサイトカインはネットワークを形成することで,それぞれの作用に過不足をきたさないように制御されている.しかし,その制御がなんらかの原因により破綻することで免疫応答の異常をきたし,関節リウマチをはじめとした自己免疫疾患の発症につながると考えられている.
関節リウマチの病態は種々の炎症性,抗炎症性サイトカイン,自然免疫,獲得免疫が複雑にからみあった病態であるが,キメラ型抗TNF(tumor necrosis factor)抗体であるインフリキシマブによる治療の成功は,TNFが関節リウマチ病態のサイカインカスケードにおけるチェックポイントであることを初めて明らかにした.インフリキシマブの投与により歩行困難であった関節リウマチ患者が数日で歩行が容易になるだけでなく,階段昇降も可能となることも今では珍しくない.しかし,約3割の関節リウマチ患者はTNF阻害療法に抵抗性を示すだけでなく,非経口投与であることに加え,高価であることから,治療導入や治療継続が困難となることが少なくない.
そこで,最近,サイトカインが細胞表面上の受容体に結合後に活性化する細胞内蛋白であるチロシンキナーゼを阻害することで同様の効果を狙った薬剤が注目されている.チロシンキナーゼは,細胞内のサイトカインシグナル伝達の起点となる蛋白質であり,サイトカインがその生物学的活性を発揮するには必須の蛋白である.生体内には約90のチロシンキナーゼが存在することがヒトゲノムの解析で明らかとなっているが,中でも活動性の関節リウマチ患者の炎症局所において発現が確認されている,mitogen-activated protein kinase(MAPK),Janus kinase(JAK)とspleen tyrosine kinase(Syk)に対する阻害薬で関節リウマチを対象とした臨床試験が既に行われている.
本稿では,最近の臨床試験の結果と,臨床での使用が間近と考えられるJAK阻害薬の作用機序につき概説する.
Copyright © 2010, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.