映画に学ぶ疾患
「ディア・ドクター」―胃癌
安東 由喜雄
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1熊本大学大学院医学薬学研究部病態情報解析学分野
pp.504
発行日 2010年5月15日
Published Date 2010/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542102304
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ファジーという点でいうと,医療の右に出るものはなく,日々の診療は,1+1=2といった具合にクリアカットに処理できないことばかりだ.同じ病気でも患者ごとに,顔が違うように症状は微妙に異なる.だから正確な医学知識の伝授だけでは患者を満足させることができない.数多ある慢性疾患はすぐに病態が変化しないものも多く,詳細な検査データの変化を説明すると患者はかえって不安になる場合もある.
「うそも方便」とまではいかないが,それに近い説明も時として必要なことがある.その山あいの小さな村には1,500人ほどの村人しか住んでいない.長らく無医村だったこの村に,3年ほど前,五十歳を過ぎた伊野修(笑福亭鶴瓶)という“医師”がやってきて診療所を始めるようになった.村唯一の総合診療所には,年寄りの腰痛,膝痛から内科疾患全般,小児の患者が詰めかけていた.映画「ディア・ドクター」の話である.伊野“医師”は,赴任して以来,場当たり的な処置をしたが,何とかぼろを出さずにやりくりし,場合によっては「名医」と崇められたりもしていた.そんななか,伊野は,一人暮らしの未亡人で,最近,胃の具合が悪く,体重が減ってきているかづ子の病状が気になって仕方ない.素人目にも悪い病気のようだ.検査の結果は予想通り,胃癌であった.しかし彼女から,「東京で医師としてバリバリ診療している娘には心配や世話をかけたくない.お願いだから娘の前で一緒に嘘をついてほしい」と懇願される.かづ子は夫を数年前に喪い,生きる気持ちも弱っていた.
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