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われわれの胃袋はしばしば癌に侵されるのに動物が胃癌に罹ったという話はあまり聞いたことがない.どうしてこのような違いがあるのだろうという素朴な疑問は昔からあったし,今もその理由が十分にわかったとは言えない.人間は雑食の最たるもので四つ足から海草に至るまで何でも口にするうえに,火を使うことを覚えたので,それらを焼いたり煮たり焙ったりして食べるようになったし,塩付けにして保存する方法も覚えた.最近では防腐剤や漂白剤などの入ったもろもろの加工食品がわれわれの身の回りに溢れるようになった.こうした食生活や食習慣が人間のみが胃癌に侵される主な理由であろうことをほぼつきとめたのはハワイの日系二世を中心にした胃癌についての疫学的研究の大きな功績であるが,このような成果はいわば漁夫が魚をとるために海に大きな網をうったのにも似て,その網の中にたくさんの魚がいることは確かであるが,まだ魚そのものを把えたことにはならない.
胃癌を実験研究の対象とする目的は2つある.その1つは上に書いたような線に沿って,その原因や発生の機構をつきとめようとするもので,最終的には動物実験に訴えることになるであろうが,それ以前により基礎的な研究が必要で,現在変異原性と癌原性,イニシエーターとプロモーターの関係についてなど,より分析と綜合を指向する研究が進行中である.他の1つは既に知られている方法を使って動物の正常な胃粘膜から癌が発生してくる過程を種々な観点から観察分析し,癌化に先行する病変があるか否か?あるとすればそれはどのような変化であるのか?癌が発生してからその個体を斃すほどに発育増殖してゆくまでにどれぐらいの時間がかかり,その間にどのような変化があるのか?肉眼型・組織型の違いは何によっているのか?また癌の増殖を促進し,また抑制する因子は何であるのか?などなど患者については行いたくとも行い得ないことを動物を使って研究・検討することである.この特集号では後者の研究領域についての現況がこの道のエキスパートである何人かの先生によって述べられるが,臨床との関係を重んずる立場からイヌの胃癌に焦点をしぼった.
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