シネマ解題 映画は楽しい考える糧[1]【新連載】
「ドクター」
浅井 篤
1
1熊本大学大学院医学薬学研究部生命倫理学分野
pp.623
発行日 2007年7月15日
Published Date 2007/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1414101178
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患者への共感が医師のプロフェッショナリズムを育む
有能だが,自信過剰で思いやりに欠ける外科医ジャックが喉頭癌に罹患する物語です.多くの検査,放射線治療,癌摘出術を受ける過程でつらさや不安,恐怖を体験して自分の弱さを知り,患者に対する優しさと共感の重要性を実感し,病んでいる人々には細やかな援助が必要なことに目覚めてゆきます.家族のありがたさも実感します.患者体験を通じて,ジャックは自分に欠けていた「プロフェッショナリズム」に気づき,外科医としての優れた技術と素晴らしい指導力を持ち合わせた医師へと成長します.ほとんどの登場人物が医療従事者,医学生そして患者であり,物語の大部分は病院内で展開します.全編を通じてJIM読者にとってなじみ深い場面が続きます.
「外科の仕事は切ることだ.間違いは許されん.体内に入り修理して出て行く」が,ジャックの信条です.彼は「患者の気持ちを考えすぎるのは危険だ.感情移入してはいかん」と考え,医学生やレジデントにもそのように教育します.たしかに過度の感情移入は医師の判断能力を低下させ,的確な診療の妨げになります.医療における適切な人間関係の境界の維持を困難にすることもあるでしょう.しかし,彼は感情移入しないどころか,患者の気持ちを一顧だにしません.
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