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抗菌薬は感染症治療において多大なる貢献を果たし,現代医療においては必須のものとなっている.しかし,抗菌薬の使用は薬剤耐性菌が出現する原因になりうる.20世紀に入って抗菌薬が発見され,製造されるようになってからは,薬剤耐性菌の存在自体は,珍しいものではなく,抗菌薬が開発され,臨床の場に導入されれば,患者から分離されるようになっている.さらに,抗菌薬の使用頻度とその使用量が増加するとともに耐性菌の頻度は高くなる傾向にある.近年,複数の薬剤系統に耐性を示す多剤耐性菌による感染症が増加の傾向にあり,臨床の場においても治療に難渋するような症例の増加が認められるようになってきている.一方,抗菌薬の開発は1990年代より頭打ちの傾向にあり,多剤耐性菌感染症の治療に対しては,今後開発される新規抗菌薬に期待することがむずかしい状況になっている.また,臨床においては免疫を低下させる治療を行う頻度も高くなっており,予防も含めて抗菌薬が多用される機会は増加し,さらに,同系統の抗菌薬を繰り返し投与される可能性は高い.そのため,今後も臨床検査の場においては多様化した多剤耐性菌に遭遇する機会は増加すると考えられる.
多剤耐性菌対策で重要なのは,耐性菌を増加させないように抗菌薬を適正に使用することであるが,分離された場合には,感染対策として拡大防止策を実施する必要がある.しかし,耐性菌は薬剤耐性検査を実施しなければその存在を把握できないというジレンマがある.さらに,特殊な薬剤耐性機序では追加試験が必要なものがあり,通常の臨床検査でどこまで対応するかが問題になってきている.また,感染対策においてはいかに耐性菌を保菌の状態で早期に発見し,早期に施設内での拡大防止策を開始するかが重要になっている.
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