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ウォルト・コワルスキーは,アメリカの田舎町に住む退役軍人である.無骨なこの男は,子育てには失敗したが,妻だけには愛された.しかしそんな妻にもとっくに先立たれていて,充ち足りない日々を送っていた.「俺は人には嫌われたが,女房には愛された」とぶっきらぼうに話すところが,この男の暖かさを伝えてくれていて,見ているものは次第に彼を好きになっていく.映画「グラン・トリノ」(クリント・イーストウッド監督)の話である.そんな彼の家の隣に中国系の少数民族,フン族の一家が越してくる.退役後,フォードで自動車の組み立てを40年もしていた彼は,72年製の名車グラン・トリノを宝物のように大事にしながら,アメリカの繁栄とともに生きてきた.だから人種には偏見があった.当然のように隣のスー,タオ姉弟につれない対応をしていたが,スーが通りでフン族の不良にいたぶられそうになったり,タオがいじめられている場面を目の当たりにすると,彼の男気ががぜん首をもたげ,体を張って助けてやったりする.しかし,ウォルトにはタオ青年が物足りない.不良と群れないことは大いに評価できるが,体は小さく,何事も控え目で女にも奥手,男は余りしないガーデニングを好んだりする.だからウォルトはタオに,「男」を教えようとする.タオに対するこうした思いやりが,思いもかけない方向へと展開していくことを,ウォルトはこの時点で気付いていない.
アメリカの銃社会は,判断のつかない不良たちにしばしば凶悪な犯罪をひき起こさせてきた.ウォルトの仕打ちに怒ったフン族の不良たちはやがて凶暴化し,タオ,ウォルトに執拗に暴力行為を仕掛ける.ついにある夜,タオの家に銃弾を浴びせたばかりか,外出していたスーを捕まえ,全身に打撲を与えたうえ,強姦までしてしまう.愕然とするウォルト.行き着くところは殺し合いしかない,と悟ったウォルトは,一晩考え抜いたあくる日,散髪をし,衣服を整え,復讐心に燃えるタオを地下室に閉じ込めた後,遺書を書き,不良たちの家へ向かった.「グラン・トリノはタオへ」.
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