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はじめに
周知のように感染症が重視される今日でも,わが国における原虫・寄生虫・医動物疾患の頻度そのものはそれほど高いものではなく,2003年の「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(いわゆる感染症法)の改正で四類,五類に分類され,全数把握の対象となっている疾患でも,報告数は少ない.わずかに赤痢アメーバ症のみが近年の統計上,増加傾向を示しており,例えば2007年度の報告例は700例前後に達している.この増加の原因は必ずしも明らかにされたわけではないが,男性同性愛者間の感染や,従来あまり見られなかった女性の感染者の報告が目立っている1).通例,赤痢アメーバの感染は飲食物などが囊子に汚染され,それらが経口摂取されて感染するが,このようないわば定型的な感染も最近の途上国への旅行者の増加に伴いより多くが報告されるようになっている.
しかし,いったん目をわが国の諸種施設に転ずると,赤痢アメーバを含む経口感染性の病原体,あるいは接触感染する医動物,特にヒゼンダニによる疥癬は,それらの感染率,予防・治療の困難さから見ても決して看過されるべきではなく,わが国においては今後の介護・福祉が老齢化人口の増加に伴い種々の困難が想定される中で,必ず対応を迫られる問題である.
これまで知的障害者を含む諸種の更正施設で発生した経口感染症はかなり多数あるが,筆者らはこの十年以上もの間,国内の主に知的障害者の更正施設における赤痢アメーバ感染について,疫学的な状況,感染経路の解明,赤痢アメーバ株の分離,その性状,診断法の検討,治療法の策定などを検討してきた.本特集では感染制御に関する事項は別項目として取り上げられるので,本稿では,ここ十数年の筆者の教室における調査研究成果に基づき,特に疫学的な側面や,関与している赤痢アメーバ株の生物学的性状などについて概説したい.
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