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はじめに
映画『ディア・ドクター』(監督:西川美和,主演:笑福亭鶴瓶)を観ました.
映画の中で,香川照之氏が演じる製薬会社の営業マンの次のような意味の台詞があります.
「自分たちも,人の生き死を預かっていると思えるときがある…」
この台詞には,自身の役割に意義を感じた喜び以上に,医療スタッフに対するコンプレックスが現れていると感じました.病院の事務職である私も,専門職である医師,看護師,薬剤師やコメディカルの方々に対して,敬意と同時にコンプレックスを抱き続けてきました.
本稿の執筆依頼が届いたとき,はじめはお断りしようと思いました.その最たる理由は,医学雑誌に執筆することについて,コンプレックスから抱く「居心地の悪さ」です.「事務屋風情がなにをぬかすか」と思われるのはないか,という恐れを感じてしまうのです.
これまでに,日本環境感染学会に参加させていただいたり,他誌に拙文を掲載させていただいたりしたことはありました.しかし,それらは普段お世話になっている医師や看護師から直接依頼されてのことで,いわば「後見人」があってのことでした.今回は前触れもなく原稿依頼が届き,コーディネーターの先生もお会いしたことがありませんでした.例えば,思いがけず高級ホテルでのパーティーに招待されどうしたらよいかわからない状態,といったところでしょうか.
また,本稿のテーマである「感染制御活動における各職種の役割―事務職の立場から」について,自分は語るに相応しくない,という思いもありました.東大病院(以下,当院)にあって,現在の私の所属は,管理課“物流・環境チーム”という部署です.物流・環境チームの主な業務内容は,「医療材料の管理・SPD(物品管理・供給センター)業務の運用」「入院時食事療養業務委託に関すること」そして「清掃業務・廃棄物など,院内の環境管理」です.物流・環境チームは感染制御チーム(Infection Control Team;ICT)活動に参加していますが,「病院感染対策委員会」のメンバーではありません.病院感染対策委員会の事務は,「感染対策センター」が所掌しています.感染対策センターは,病院の意思決定機関である執行部に直結した運営支援組織に属し,予算配分もされています.物流・環境チームがICTの中で求められる主な役割は,院内の環境管理です.したがって,「感染制御活動」の事務を取りまとめているわけではありません.
それでも,本稿を書かせていただこうと思ったのは,病院の環境管理を進める中で感じている「障害」について,病院関係者で幅広く問題意識を共有できないかと考えたからです.病院にかかわらず事務職の仕事は,とどのつまり「そろばんをはじく」ことと言ってよいと思います.「お金がかかる」ことが障害で,環境管理が進められない病院は多いのではないでしょうか.それ以前に,環境管理において「本当にお金をかける意味があるのか」「お金の使い道は正しいのか」という疑問を抱く問題もあるのではないでしょうか.
本稿で私は,「感染性廃棄物の管理」の取り組みについてご報告しながら,「感染制御活動における事務職の役割」について語ることを試みたいと思います.代表的あるいは象徴的な事務職の姿でないかもしれませんが,「そろばんをはじく」ひとつの形であることは,間違いないと思います.
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