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第55回日本臨床検査医学会学術集会が,2008年11月27日(木)~30日(日)の4日間,愛知県名古屋市の名古屋国際会議場で開催された.登勉集会長のもと,「進化する臨床検査」をテーマに,病気の予防・診断から治療選択までを見据えた発表,ディスカッションが繰り広げられた本会は,学術的にも非常にハイクオリティーで,かつ日常業務に対する示唆にも富む,すばらしいものであった.中でも今回注目を集めた発表の一つが,「トランスサイレチン―そのミラクルな機能と役割」と題した,熊本大学大学院医学薬学研究部・病態情報解析学分野の安東由喜雄先生による招請講演であった.
トランスサイレチン(transthyretin:TTR)は,その名の由来のとおりサイロキシンおよびレチノール結合蛋白を介し,ビタミンAの担体として機能する蛋白質として古くから知られてきたが,安東先生は,このTTRについて,上記のような古くから知られる機能のみにとらわれず,①わが国に大きなフォーカスを持つ常染色体優性遺伝の疾患,家族性アミロイドポリニューロパチー(Familial Amyloid Polyneuropathy;FAP)の原因蛋白質としての側面(異型TTRが関与),②高齢者の心臓や肺,消化管,大動脈系,甲状腺などにアミロイドが沈着し,臓器障害に至る老人性アミロイドーシス(senile systemic amyloidosis:SSA)の原因蛋白質としての側面(野生型TTRが関与),③早期卵巣癌における腫瘍マーカーとしての側面,④インスリン強化蛋白質としての側面,⑤急性期の栄養評価蛋白質としての側面,からもそれぞれ詳細に基礎的,臨床的検討をなさっており,その蓄積されたデータから,この蛋白質が臨床検査上いかに有用な物質の一つであるかを今回われわれに教授されたのである.このほか,最近の研究からTTRには神経組織保護作用があることも明らかにされてきたようで,さらに脈絡叢で産生されるTTRは,アルツハイマー病の進行に抑制的に働くとする報告もあるらしい(他方でこれを否定する論文もあり,この点に関する議論は現在も分かれているとのこと).TTRがこれほどまでに多面性を持つことを知り,多くの聴衆は驚いたのではなかろうか.
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