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第55回日本臨床検査医学会学術集会は2008年11月27日から30日まで,名古屋国際会議場において開催されました.11月27日には各種委員会,評議員会,全国検査部長・技師長会などの会議が開かれ,11月28日に学術プログラムが開始されました.開催までの準備もさることながら,学術集会長が主催者として最も気にすることは会期中の天候であり,テレビや天気図からの情報と11月末の天気の周期性を総合判断しては,1週間前から天気予報を見ては一喜一憂の毎日でした.学術プログラム初日の午前中は雨,午後は曇りという予報でしたが,会期を通して天候に恵まれ,参加者数も日本臨床検査医学会単独開催としては主催者の予想を大きく上回る1,659名でした.
参加された会員に「あの名古屋での学術集会の講演は素晴らしかった,あの発表で自分の何かが変わった」と後々まで思い出していただけることを願って企画しましたが,学術プログラム2日目の2つの招請講演は,個性豊かな講師の巧みな話術と深い示唆に富んだ内容であり,特に好評でした.招請講演1は熊本大学大学院医学薬学研究部病態情報解析学教授の安東由喜雄先生が「トランスサイレチンーそのミラクルな機能と役割」と題して講演されました.講演では,まずトランスサイレチン(transthyretin;TTR)の生化学的性状を紹介し,栄養アセスメントにおけるTTRの役割について,急性期の指標としての重要性とともに反急性期蛋白である点に注意することを強調しました.次に,TTR遺伝子の変異による異常TTRがアミロイドとなって全身の臓器に沈着し,臓器障害を起こす家族性アミロイドポリニューロパチーへと話を進めていきました.治療法としての肝移植やプロテインチップを用いた診断法について述べ,正常TTR沈着による老人性アミロイドーシスや早期卵巣癌マーカーの可能性,さらにはインスリン強化蛋白質としての作用など,最近の知見についても紹介しました.一つのテーマを追い続け,探求する研究者のロマンを感じさせる講演でした.招請講演2「時間を生きる―生物学的時間論」は東京工業大学生命理工学研究科生体システム専攻の本川達雄教授よるもので,具体的な動物の時間の例から東洋と西洋における生命観の違い(西洋の直線的生命観と東洋のめぐる生命観)について述べ,現在のわれわれの生き方に関連する示唆に富んだ講演であった.最後には,自作の歌を披露された.講師が歌う講演を聞いたのは初めてでしたが,生物学者の詩には哲学性があり,唄う歌は人格を表すことを教えられました.
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