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1.はじめに
ビスフォスフォネート(bisphosphonates;BP)は,石灰化抑制作用を有する生体内活性物質ピロリン酸と類似の構造をもつ化合物である1).BPの最大の特徴は投与経路,投与方法にかかわらず,骨に沈着して骨ミネラルと強固に結合し,破骨細胞に選択的に取り込まれ,メバロン酸経路の阻害を介して破骨細胞にアポトーシスを誘導することにより骨吸収を抑制することである.すなわち,BPは破骨細胞による骨吸収を特異的に抑制する薬剤である.BPは骨粗鬆症,高カルシウム血症,骨パジェット病,線維性骨異形成症,骨形成不全症,臓器移植後に見られる骨量減少,無重力における骨量減少,透析中の患者に見られる腎性骨異栄養症などの様々な骨疾患の治療薬として広く使用されている.さらにBPは腫瘍随伴性高カルシウム血症,あるいは乳癌,肺癌および前立腺癌,多発性骨髄腫に見られる骨転移や骨関連事象(skeletal-related events;SRE)の予防や治療,また特記すべき効果として骨痛の軽減,さらに癌治療によって誘発される骨量減少(cancer treatment-induced bone loss;CTIBL)などに対しても有益な作用を示す1).BPはその特異な化学構造のため骨以外の臓器にはほとんど分布せず,長期間投与による副作用や合併症は食道粘膜炎以外には特に報告されていなかった1).
近年,高カルシウム血症や骨転移の治療のために長期間にわたってBPの投与を受けている癌患者が,抜歯などの歯科治療を受けたあとに顎骨壊死(bisphosphonate-related osteonecrosis of the jaw;BRONJ)が誘発されるとの報告が見られるようになった2,3).現時点ではBRONJ誘発のメカニズム,特にBPとの関係は不明であり,ようやく病態,症状に関して一定の見解が定まりつつある段階で,適切な予防法,治療法はいまだ確立されていない.
本稿では,このようなBRONJの現状,その発症メカニズムに関する考察および対応策について述べる.
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