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1.はじめに
1994年の予防接種法の改定後インフルエンザワクチンの定期接種は任意接種となった.その後にワクチン接種者は前年度比で約2%までに激減し,インフルエンザの流行が増加することが予想されていた.こういった状況のなか,インフルエンザ流行中の短期間に多くの急死症例が小児を中心に全国的に経験されるようになった.当初原因は不明であったが,後にほとんどがインフルエンザ脳症によるものであることが判明した.われわれの施設でも1998/99年度は1週間に4例,99/2000年度は1例,2000/01年は2例のインフルエンザ脳症による死亡症例を経験した1).全国的にみても98/99年に217例がインフルエンザ脳炎・脳症として報告され,500例以上の実数患者がいたことが知られた2).また,当初はわが国にのみ発症しているということがいわれ,また,薬剤との関連を示唆することも報道された.しかしながら,その後,米国・欧州でも同様に急激な経過から死にいたるインフルエンザ脳症が多数報告3),また解熱剤の服用をしていない患者も多くいることが知られた.また,病理解剖などの結果から,中枢神経系に炎症反応はなく,ウイルスも検出されることは稀であることから,脳炎という名称は外れ,インフルエンザ脳症という呼称になった.今のところ,脳症を起こしやすい特異的ウイルスの流行は報告されていないが,H3N2(香港型)が流行した時期に発症者はより多く,H領域に特徴的な領域の報告がされている4).しかし,H1N1やB型でも脳症を発症し同様に予後不良の経過をとる.また,ワクチン未接種者の発症例が多かったが,その後わが国でのワクチン接種者例が増加し,ワクチン2回接種を受けている患者でも多数発症していることから,ワクチンによる脳症予防効果は疑問視されている.本稿ではこれまでに知られたことと,いまだ議論の段階にあることについて整理し報告する.
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