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はじめに
同種(他人)からの移植は主要組織適合性抗原(major histocompatibility complex;MHC)が一致することは極めて稀である.MHCが異なると臓器移植では拒絶反応が,造血幹細胞移植では移植片対宿主病(graft versus host disease;GVHD)がしばしば惹起される.移植成績の向上のためにはMHCの最も主要なヒト白血球抗原(human leukocyte antigen;HLA)を適合させることが必要とされる.
20世紀当初より移植医療の研究や臨床応用が積極的に行われるようになり,難治性の臓器不全や造血器腫瘍などに対する新しい治療法として欧米を中心に広く実施され,生命維持とQOL(quality of life)の改善に貢献してきた.特に1980年代以降,シクロスポリンなどの新しい免疫抑制剤が開発され,移植成績が著しく改善し移植症例数は飛躍的に増加した.
移植される臓器は心臓,肺,腎臓,膵臓,肝臓,小腸など,組織は骨,角膜,皮膚,心臓弁,血管,気管など,細胞では骨髄,末梢血幹細胞,臍帯血,膵ランゲルハンス島など多岐にわたっている.
移植では提供者(ドナー)と患者(レシピエント)の適合性が重要である.この適合性を支配しているのはMHCで,最も主要なものはHLAである.臓器移植では適合性がよければ拒絶反応は起こりにくく,使用する免疫抑制剤の量も少なくてすむため,免疫抑制剤による副作用も軽減できる.逆に適合性が悪ければ,拒絶反応が起こりやすいだけでなく,免疫抑制剤が多量に必要となる結果,感染症などにかかりやすくなる.ただし,時間的に制限がある心臓や肺移植などの移植は,HLAの適合性を考慮せず移植が行われる.また,骨,角膜などの組織移植ではさほどHLAの影響を受けないため,これらの移植も適合性を考慮せず移植が行われる.腎臓などの臓器移植では,レシピエントがドナーのHLA抗原に対するHLA抗体を持つ場合,超急性拒絶反応が惹起されるため,患者のHLA抗体検査は重要な検査の1つである.血液型については,血漿交換や体内で中和するなどの適切な処置により,近年ABO血液不適合移植での腎臓や膵臓などの移植1)が成功しているが,ABO抗原は強い組織適合性抗原であることは間違いない.
造血幹細胞移植では,むしろ拒絶反応よりドナーの細胞が,レシピエントの組織や臓器を障害するGVHDが問題となる.移植後100日以内に発症し,消化管,肝臓,皮膚などを標的臓器として下痢,黄疸などの臨床症状を呈する急性GVHDと,100日以降に発症し多臓器を障害し膠原病様の臨床症状を呈する慢性GVHDとがあるが,いずれにしても,GVHDはレシピエントの免疫系再構築を著しく障害させる最大の合併症である.GVHDを軽減させるためにはドナーとレシピエントのHLAの適合性を高める必要がある.最近の研究により,非血縁者間骨髄移植において遺伝子型(allele:対立遺伝子)レベルを適合させることが移植成績の向上に寄与することが解明した2).さらに,興味深いことに不適合の遺伝子型の組み合わせによりGVHDの発症の程度に差があることがわかってきた3).
本稿では組織適合性試験の中心であるHLAタイピングについて概説する.
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