- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
1.はじめに
近年の細胞生物学的解析手法の進展により,新たな幹細胞システムが多数報告されている.従来では再生が不可能と考えられていた臓器,例えば神経や心臓における幹細胞システムの発見は,外傷や疾患などにより障害を受けたこれらの臓器再生の可能性を示唆するものである.
幹細胞システムの存在する臓器として血液,皮膚などの解析は歴史が古く,血液幹細胞を含む骨髄移植による白血病治療や上皮幹細胞を含む培養自己皮膚シートによる重症熱傷患者の治療は,まさに再生医学の草分け的存在である.これら血液,皮膚における幹細胞の同定,分離のためには,それらを識別する細胞表面マーカーやラジオアイソトープによる標識を利用することが一般的であった.しかしながら,表面マーカーの発現が十分に解析されていない動物や臓器においては,その利用は抗体の入手など困難な場合が多い.また,ラジオアイソトープの利用には様々な制約が課せられている.このような状況下,1996年に米国のGoodellらはDNA結合蛍光色素の一つであるHoechst33342を用いてマウス骨髄におけるSP(side population)細胞の存在を報告した1).彼らは,これら骨髄SP細胞は,移植実験から長期に造血能を維持できる造血幹細胞を豊富に含んでいると述べている.翌年に同じくGoodellらはマウスのみならずヒト,赤毛ザル,ミニブタ骨髄中においても同様のSP細胞が存在することを報告している2).
SP細胞はHoechst33342を細胞外へ排出しようとする多種薬剤輸送体(multi-drug transporter)機能の高い細胞集団としてフローサイトメトリー法にて特定される.それは350nmの紫外線レーザー照射によって色素の排出細胞集団が発する蛍光をHoechst BlueとHoechst Redの2色に展開することにより,特定の位置に同定される細胞集団である(図1).骨髄SP細胞発見の後,様々な臓器,組織における同細胞の検索が行われ,それらが幹・前駆細胞様の機能を持っていることが報告されている.
ここでは骨髄,皮膚,心臓,中枢神経系,骨格筋および,その他の臓器におけるSP細胞研究を解説し,再生医学における意義を考察する.
Copyright © 2007, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.