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血清蛋白質の異常(アノマリー)を分析することによって患者の病態を把握しようといういわゆる「臨床蛋白分析」の試みは,1937年にチゼリウス博士が蛋白質の電気泳動法を開発したところからスタートしたといっても過言ではない.この分析法はガラスのU字管に電解液を充填し,これに血清蛋白質を加えて電流を流したときに移動する蛋白質の界面を,シュリーレン像として観察するという当時としては画期的なものであった.かなり大掛かりな装置が必要であり,しかも当初は市販の装置がなかったために,臨床の場において多くの患者の検査法として広く利用されるには至らなかったものの,東京大学や京都大学,山口大学などの研究室が装置を自作し,患者血清を精力的に分析したことによって,炎症性疾患や肝疾患などの急性期に血清蛋白質に異常なパターンが現れることが明らかとなり,「臨床蛋白分析」の有効性を広く知らしめる結果となった.その後澱粉ゲルや寒天ゲルを支持体とするゲル電気泳動が開発されたことによって,病院の検査室でも比較的簡単に蛋白分析が行えるようになり,さらに特異抗体による沈降バンドの観察法を組み合わせたいわゆる「免疫電気泳動」が開発されて,血清蛋白質分析の黄金期を迎えることとなった.この方法は操作が簡単な割には,血清蛋白質の異常を鋭敏に検出できることから,現在でも一部の疾患の解析には欠かせない技術となっている.一方,セルロースアセテート膜を支持体とするいわゆる「セア膜電気泳動法」は,全自動の装置が市販されたということもあり,多くの大学病院等の検査室で日常的に実施されるようになった.しかしその後,ヒトの全ゲノムDNAの塩基配列の解読によって約3万種の遺伝子の存在が明らかとなり,いよいよゲノム情報に基づいたオーダーメード医療の時代に突入しようとしている今日,血清蛋白質の5分画パターンの異常からすべての疾患の病態を把握しようという考え方はあまりに時代遅れなものとなっている.「臨床蛋白質分析」にも最新の技術を取り入れ,「ポストゲノム時代の新しい臨床プロテオミクス」に生まれ変わるべき時期に差しかかってきている.
現在のプロテオミクスは,オリジナルの「①二次元電気泳動と画像解析および質量分析の組み合わせによるもの」以外に,「②二次元クロマトグラフィーと質量分析の組み合わせによるもの」,「③プロテインチップと質量分析を組み合わせたもの(SELDI法)」など,様々なものが実施されているが,新たな疾患マーカーを探索する基礎研究には①と③が向いており,すでに多くの成果が報告されている.しかしこれらは基礎研究には有効であるが,臨床の現場で多数の患者血清の日常検査法として実施するには,設備の面や検査コストの面で現実的ではない.これに対し,将来の検査法として最も有力視されているのは,微小なチップ上で多数の患者検体の検査を多項目にわたって一度に行える,いわゆる「プロテインマイクロアレイ分析」であろうと考えられている.この際,マイクロアレイ上にプローブとして並べられるのは,恐らく各種疾患のマーカー蛋白質に対する特異抗体であると考えられる.しかしこれを実現するためには,①チップ上で検出すべき疾患マーカー蛋白質を多数見つけ出し,②それらに対する特異抗体を作製することが必要となる.
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