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1.はじめに
前立腺癌は日本人の生活形態の欧米化に伴い日本でも増加する傾向にある.前立腺癌の特徴として前立腺特異抗原(prostate-specific antigen;PSA)を発現することと造骨性骨転移を起こすことが挙げられる.進行前立腺癌は高率に骨に転移し,骨転移の85%以上の症例で造骨性転移をきたす.骨に転移した癌細胞は破骨細胞や骨芽細胞への作用により局所の骨代謝に影響を及ぼす.多くの癌がほとんど溶骨性の骨転移をきたすのに対して,前立腺癌では造骨性の骨転移が高率に起こることから,前立腺癌細胞は比較的特異的な骨形成促進活性を有するものと思われる1).しかし,前立腺癌の造骨性骨転移機構については不明な点が多い.
前立腺癌は,前立腺以外の組織あるいは腫瘍では産生されないPSAを多量に産生し分泌する.PSAは前立腺癌の極めて有用な腫瘍マーカーとして,現在広く臨床の場で使用されている2).PSAはセリンプロテアーゼの一種として,精液蛋白質であるセミノゲリン,フィブロネクチンを分解することにより精液の液化に重要な役割を果たし,精液の運動性を増強させる3).さらにin vitroで不活性型トランスフォーミング成長因子-β(transforming growth factor-β;TGF-β)を活性化することが報告されている4).骨転移を伴う前立腺癌患者の血中PSA濃度は比較的高いため(100~50,000ng/ml),PSAは骨芽細胞の増殖に影響を及ぼす可能性が考えられる.しかしながら,骨芽細胞の増殖,活性化におけるPSAの影響に関する情報はほとんどない.
最近,骨芽細胞の増殖,活性化におけるPSAの病態生理学的作用を検討した結果,PSAがin vitroならびにin vivoにおいて骨芽細胞の増殖を刺激することを観察したので報告する5).
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